8月に入り、連勝で首位に立ったのが広島である。監督の新井貴浩について、広島担当の記者が驚いている。「負けたあとも、絶対に選手を責めない。言いたいことがあるはずなのに、グッと我慢して、選手に寄り添う。選手ファースト。これを貫く監督なんです」。
現役時代、阪神にFA移籍してきた新井を取材した。クセのない選手…という印象が強く、「誰とも仲良くできるタイプ」と同僚は評していた。素直で嫌みなし。好漢・新井貴浩のイメージは阪神でより浸透した。
2008年、阪神に移籍してきて、新井の守備練習を見つめたのが当時の監督、岡田彰布だった。それまで三塁を守っていた新井のディフェンス能力を見極めた。結論が出た。三塁は無理。一塁なら十分やれる。そこで行われたコンバート。「一塁新井」で彼の世界は変わった。
「そらうまいよ。三塁の時より、フットワークがよくなり、捕球もていねいでうまい。そら(ゴールデングラブ賞を)取るよ」と早々と予言していた。この頃のことを振り返り、新井は岡田に感謝の気持ちを表した。「適性というのか、選手を見て、ベストな選択をしてもらった。自分がゴールデングラブを取るなんてね」。2008年、新井はゴールデングラブ賞を受賞し、適材適所の重要性を改めて知った。
ところが岡田が退陣したあと、新監督に就任した真弓明信は、新井を再コンバート。また三塁に戻したのである。攻撃力を上げたい真弓の思惑があってのものだったが、これに反対したのが評論家になった岡田だった。
「ゴールデングラブを取った選手を次のシーズンにコンバートするなんて、初めて見たわ。なんでやろ? 新井はゴールデングラブやで」。表立っての論評は新井の目に届いていた。
2008年の勝負どころで、腰の骨折で働けなかった新井の悔い…。監督だった岡田に対する申し訳なさ。これは有名な話だが、短時間であっても、岡田と新井、この2人の関係はけっこう濃密だった。その2人が2024年シーズンでいよいよガチンコ対決の時を迎える。広島、巨人、阪神の三つどもえの様相になった優勝争い。あくまで選手ファーストで臨む新井に対し、岡田は結果優先の方針を崩さない。
「プロに、がんばったのに…という言葉は不要。がんばったら、結果を出す。これがプロや」。ここに選手ファーストは見当たらない。これが岡田流といえる。
残りは40試合あまりになったペナントレース。ここにきてDeNAが脱落気配で、上3チーム、下3チームの色分けができてきた。ここからは選手の力比べが一番になるが、それをいかに引き出すのか。監督の手腕勝負も見どころ。選手寄り添い型の新井、若さの阿部、そしてシビアさを貫く岡田…。三者三様の監督勝負のゴングが鳴る。【内匠宏幸】(敬称略)(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「岡田の野球よ」)




