夏の甲子園連覇を目指す花咲徳栄(北埼玉)にスーパー1年生打者が現れた。その名は井上朋也外野手。1日、横浜(南神奈川)との練習試合で、来秋ドラフト上位候補の最速152キロ左腕、及川(およかわ)雅貴投手(2年)から、左翼へ高校通算9号の特大弾を放った。甲子園常連同士の対戦で新戦力が鮮烈なインパクトを残し、今週から本格化する夏本番へ期待を抱かせた。

 悠然とダイヤモンドを回っていると、岩井隆監督(48)から「早く回れ!」とカミナリが落ちた。花咲徳栄・井上は慌ててホームベースへ急いだ。横浜の超高校級左腕・及川からの1発にも、格別に興奮することはない。これで高校入学後、9本目のアーチ。自身の中学通算24発を軽くクリアしそうな勢いだ。

 2回2死一塁での第1打席、チームはまだ無安打だった。井上もあっさり2球で追い込まれた。3球目のファウルも思い切り体を崩された。漂う三振の予感はしかし、ひと振りで霧散。浮いたスライダーを、左翼席へ運んだ。3球目までとは別人のような強振に「これは自信になります」と胸を張った。

 夏本番を直前に、15歳の7番打者が残した強烈なインパクト。「ああいう子。私にも分からない時がある」と笑った岩井監督は「楽に打たせたい」と下位に井上を置いている。存在を認めた横浜は、8回2死一、二塁のチャンスで井上を迎えると及川を降板させ、変則右腕の黒須へスイッチした。どの学校も、どうしても勝ちたい節目の100回大会。駆け引きは始まっている。

 昨夏は志望校・花咲徳栄の激闘を2試合、甲子園で観戦した。決勝は大阪府内の自宅でテレビ観戦。画面にかじりついた。9回2死、あと1人で日本一。しかし、肝心の瞬間を井上は見ていない。近所にカミナリが落ち、なんと停電。最後の最後でテレビが消えた。「Wi-Fiまで切れちゃいました…」と鉄板ネタのように笑い、嘆く。味わえなかった興奮を、バットで再現する夏が始まる。スーパー1年生は「少しだけ、慣れてきました」と不敵に笑っている。【金子真仁】

 ◆井上朋也(いのうえ・ともや)2003年(平15)1月28日、大阪・四條畷市生まれ。中学時代は生駒ボーイズ(奈良)でプレー、17年の世界少年野球大会で日本代表に選ばれた。180センチ、79・5キロ。