大船渡の最速157キロエース右腕・佐々木朗希(2年)が、東北大会(10月12日開幕、秋田)出場を逃した。今大会初めて先発を外れたが、1点差に迫られた8回裏無死二塁から登板。3連打に加え、押し出し四球で勝ち越されて専大北上に10-11と逆転負けを喫した。前日23日に行われた盛岡大付との準決勝で166球を投げた影響で、左股関節痛を抱えた満身創痍(そうい)の状態。悔しさを胸に来春へ、さらなる成長を誓うとともに、プロ野球経験もある敵将からは「江川卓級」と絶賛された。

佐々木が全責任を背負った。2点を奪われ1点差。なおも無死二塁。最初の打者は148キロの直球で中飛に打ち取るも、続く打者に左安を浴びて同点。3連打で満塁とすると制球力も欠いて押し出し四球。「自分のせいで負けてしまい、東北大会に行けなくなったので悔しいです。打者との駆け引きなど、全体的にレベルアップしないといけない。来年こそ自分がみんなを連れていけるよう頑張りたい」。球速は151キロ止まり。189センチの大きな体を少し丸め、終始うつむきながら顔の汗を拭った。

今夏までは成長期も踏まえて、連投にセーブをかけてきた。新チーム以降、新たに筋力トレーニングを導入するなど、体力面の下地は作ってきたはずだった。今大会初戦で自己最速を3キロ更新する157キロをマーク。だが、全4戦を完投した代償は大きかった。「もう足が上がりませんでした」。左股関節に激痛を感じ、「もう投げられません」と起床後に国保陽平監督(31)に重い現実を告げた。

試合前には仲間から「朗希を秋田(東北大会)のマウンドに立たせてやろう」と円陣で奮い立たされた。佐々木も「出来る限りのことは何でもやりたかった」と、1年時以来となる三塁コーチを懇願。声やジャスチャーで仲間を鼓舞した。ピンチの場面では大船渡一中時代の同級生でもある先発の和田吟太投手(2年)のもとへ伝令にも走った。7回に同監督から代打を打診されると「投げたいです」と直訴。9回1イニングの予定も「自分で最後を抑えたいと思った」と、自然にマウンドへ体は向いた。9回表の打席では左翼フェンス50センチ手前の大飛球で、再逆転の夢は消えた。

9年ぶりの秋季東北大会出場を決め、プロ野球中日などで捕手として活躍した専大北上・中尾孝義監督(62)からも「江川卓級ですよ」。浮き上がってくるような直球を、大投手に例えられた。「オレは江川と高校生の時に対戦してファウルにしたけれど『ピュー、ピュー』って球の伸びは一緒。指にかかるスナップの強さ。突然変異だね」。プロ、アマ問わず、素質を評価された今秋の主役だった。怪物物語は来年にも続きがある。【鎌田直秀】