史上初となる2度目のセンバツ連覇を狙う大阪桐蔭が、大苦戦の末に8強に進んだ。能代松陽(秋田)・森岡大智投手(3年)を打ちあぐね、わずか2安打。7回、1死三塁からスリーバントスクイズを決めて、ワンチャンスをものにした。甲子園では同校初めての1-0勝利だった。

    ◇    ◇    ◇

勝負のあやは7回の攻防にあった。0-0の7回、大阪桐蔭ベンチは1死二、三塁のピンチでマウンドに伝令を送った。

西谷浩一監督(53)の指示は、南恒誠投手(3年)に対しては「打たれてもいいから思い切って投げろ」。野手には「投手に任せるな。全員で、全球に集中しろ。足を動かして、全部自分のところに来ると思って準備しろ。攻めの守備をしろ」だった。

ピンチで気持ちが引くと、余計に押し込まれる。球場の雰囲気も変わる。昨夏敗れた下関国際(山口)戦もそうだった。

先発し、力投を続けてきた南は6番打者を見逃し三振に仕留めた。すると西谷監督はもう1度、伝令を送った。「9人全員で切り抜けろ」と念を押した。「2死になるとちょっとホッとしますし、守備位置も変わってくる。(1死と)同じ気持ちでと思いまして」と意図を説明した。

ピンチで硬くなるタイプという右腕は思い切りも強気も取り戻していた。次の打者を右飛に抑え、無失点。その裏、三塁打とスクイズでようやく1点が入った。これが決勝点になった。

12年のセンバツ。準々決勝の浦和学院(埼玉)戦で、1-1の7回に藤浪晋太郎(現アスレチックス)が無死満塁の大ピンチを招いた。ここから西谷監督は藤浪のもとに3者連続で伝令を送った。しつこいほど確認事項を受け取ったエースは、圧巻の3連続三振で窮地を切り抜けた。春夏制覇に道をつなぐ大胆なベンチワークは語り草だ。

史上最多、春夏8度の甲子園優勝を誇る西谷監督。1球の怖さ、流れの重要性。目には見えない勝負のにおいを嗅ぎとる百戦錬磨の采配だった。【柏原誠】