<センバツ高校野球:浦和学院17-1済美>◇3日◇決勝

 安楽、泣くな…。9年ぶり優勝を目指した済美(愛媛)が浦和学院(埼玉)に完敗した。4試合完投で決勝戦に臨んだ2年生エース安楽智大は5回につかまり、自身最多の1イニング7失点。7回に一塁に回り、8回はベンチに下がった。初戦で甲子園の2年生史上最速152キロをマークし大会の主役を務めた右腕は夏のリベンジを誓った。

 安楽は、涙の味を2度知った。ふがいなくて、試合中の涙は苦かった。試合後のスコアボードを見てまたこみ上げると、隣から声がした。「お前のおかげでここまで来れたんや。もう、泣くな」。捕手の金子が背中をさすってくれていた。のみ込んだ涙は、違う味がした。

 「満塁でも動じない心、3連投でも苦にならない体をつくって夏に戻って来たい」。前向きな言葉で振り返ることが出来た。支えを知ればこそだった。

 初の3連投で臨んだ決勝。精いっぱい右腕を振っても142キロがやっと。ときには130キロを割った。5回に限界が来た。カーブ、スライダーを痛打され、3連打で同点。2死二塁でゴロを一塁手が捕りこぼした。いつもは「エラーのあとは三振を狙う」が、ここで死球。2死満塁から7点を失った。上甲正典監督(65)の「代わるか?」の問いかけに、首を振った。6回もマウンドに立った。だが死球で走者をため2失点。ベンチで交代を告げられ号泣した。

 広い可動域を持つ右肩、右肘は持ちこたえても、下半身が悲鳴をあげていた。前日の準決勝後「立っているのがやっと」ともらし、銭湯で足をもみほぐした。それでも、5回のベースカバーはふらついた。

 小学高学年で球速は120キロを超え、打っては東雲小学校グラウンド右翼後方の川まで飛ばした。たも網を持って打球をすくうのが、練習見学の父親の仕事。済美でも力は抜きんでていた。それでも素顔は16歳。昨秋四国大会で高知遠征時にホテルで「1人では寝られない」と金子の部屋をたずねた。甘え上手で礼儀正しいエースが772球で力尽きても、チームメートは笑顔で囲んだ。

 「甲子園で監督を胴上げします」。そう約束した。夏空が待つ甲子園に、安楽は必ず戻って来る。【堀まどか】