選手のプレーを連続写真で分析する「解体新書」。

今回は日刊スポーツ評論家に新たに加わった上原浩治氏(45)が、広島のドラフト1位ルーキー、森下暢仁投手(22)の投球フォームをチェックした。コロナ禍で開幕日が不透明な中、来るデビュー登板に備えて調整を続ける右腕。初のフォーム解析を行った上原氏は、やや担ぎ気味に投げる森下を、実戦向きのタイプと評価した。

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今年のNO・1ルーキーの呼び声が高い即戦力投手だと聞いた。まだ本番のマウンドで投げていない中で評価するのは難しいが、投球フォームを見れば、評判が高いのはうなずける。特に全体的なバランスがいい。連続写真を見ても「ここがダメ」という箇所は見当たらない。動画でもチェックしたが、実戦向きの投手だと感じた。

まず<1>から動き始め、<3>で左足を上げている。写真だと伝わりにくいが、上げている左足を少しの間止めて、間を取っている。この時、軸足の右足が微動だにしない。バランス感覚と下半身、足腰が強いのだろう。しっかりと軸足に体重を乗せたいという気持ちが伝わってくる。投球フォームで重要な部分を理解している証拠だと思う。

そういう意識があるから、<4>でお尻をキャッチャー方向に突き出していくが、<5>でも体の右側に重心が残っていて、頭も突っ込んでいない。投球フォームで意外と難しいのが、投げる方向に勢いをつけようとすると、どうしても上半身や頭が突っ込みがちになってしまうこと。しかし、ここまでのフォームで気になる点はどこにもない。

横からの写真だと分かりづらいが、森下の特徴的な部分が出ているのは、<6>から<7>にかけての胸の張り方だろう。動画を見ると分かりやすいが、腕の振りが極端に上から投げ下ろす“担ぎ投げ”のタイプ。体が反っくり返らないように、顎が上がらないように我慢しているが、それでも胸の張りが大きく、背筋が反っているのが分かるだろう。

森下は“担ぎ投げ”というほど担いでいないが、このタイプは高めに威力のある真っすぐが投げられる半面、低めの真っすぐが垂れる傾向がある。実際に投げている球を見ても、森下にも同じ傾向が見受けられる。ストレートだけで言うなら、低めに力がある球を投げられるようにした方がいいが、森下には大きく縦に曲がるカーブがある。このカーブで打者の目線が上がるし、今のままのフォームで力のある高めの真っすぐが投げられれば、プロで勝負できると思う。

担ぎ気味で投げるため、少しだけ左肩の開きも早く、腕が遅れ気味になるが、<8>ではボールを持つ右手が頭の後ろに入っている。これは、打者にボールが見えないように工夫しているからだろう。それに、担ぎ気味に投げる投手は左肩が開きやすいが、極端に上から投げられるため、ボールが見えにくいという長所もある。打者がどう感じるのかはそれぞれだろうが、球の出どころが見えづらいフォームではないか。

<9>はリリース直後だが、もう少しだけボールを前で離せるといい。踏み出した左膝の角度が折れすぎているから、投げる方向へついた勢いに、ストップをかけてしまっている。この角度で左膝が折れていても、<10>で、もっと左足の上に上半身が乗ってくるように体重移動できると、腰が引けたような形にはならないし、<11>で頭が突っ込み気味にもならない。リリースも、もう少しだけ前にもってこれると思う。フィニッシュの<12>のバランスはいい。センスもありそうで、頭の中で「リリースを前にしよう」と意識するだけでフォームが良くなるかもしれない。

高いレベルで話したため、注文が多くなってしまったが、能力は高そうだ。投球フォームとは関係ないが、高めの真っすぐと大きな曲がりの縦のカーブに加え、チェンジアップもいい。落差はないが、カーブと同じように腕の振りが緩まず、真っすぐと同じ振りで投げられる。このチェンジアップは、あまり低めに投げると打者に見極められそうだが、真ん中付近に投げれば効果的に使えそう。まだ体の線が細いが、それだけ伸びしろがあると思っていい。勝ち星を積み重ねていけば、打者に対しての威圧感も出てくる。楽しみな投手だと思う。(日刊スポーツ評論家)