阪神元監督で日刊スポーツ評論家の真弓明信氏(67)が好評企画「解体新書」で阪神大山悠輔内野手(25)の打撃フォームを分析した。打線の主軸としてタイトルを争うまでに成長。真弓氏がその要因を読み解いた。シーズン残り2試合で、本塁打リーグトップの岡本に3本差。初のタイトル獲得へ「ホームランを狙え」と力説。その真意を語った。【取材・構成=田口真一郎】

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昨年までの大山は、調子のいい時は1カ月で10本ぐらい本塁打を打てるが、その一方で全く打てない時期もあり、調子の波が激しかった。今年はその波が少なく、いい時期が長い。

今年の構えの特徴としては、バットのヘッドを投手側に倒すところにある。この構えだと、バットが遠回りするという声もあるが、<5><6>を見ると、ヘッドは頭の近くからスッと出ている。遠回りする軌道ではなく、ミートポイントまで最短距離でアプローチしている。今年はそれがうまくいっている。構え自体は基本に忠実ではなく、ほめられるようなものではないんだけど。ただ、こう構えるなら、こうやって振らないと間に合わないということは言える。

もう1つ、写真を見れば、一目瞭然で彼の良さが分かる。構えからミートするまで、頭が下がる選手もいるが、大山の場合は、<3>から<10>まで、頭の上下動がほとんどない。横一線でしょ? 上下の軸がしっかりしており、確実にボールをとらえるために、大事なところだ。目線が動けば、それだけ確実にとらえるのは難しくなる。頭を動かさないほうがいい。それは下半身がうまく使えているからだ。聞くところによると、去年までは膝の状態が良くなかったらしいね。右足の軸が動く時期があったが、今年は動かず、うまく腰の回転を支えている。スムーズに回転できるので、上体の力も抜けて、バットの出も良くなる。

最初の構えに話を戻すが、この打ち方をコーチが指導することはまずないと思う。怖くて言えないよね。それを考えると、大山が自分でいろいろと考えながら、作り上げたフォームだと思う。これは非常に大事なことだ。

シーズンの最後まで、本塁打王のタイトルを争っているが、まだ取れる可能性はある。1つ言えるのは、1打席を大事に、ホームランを狙っていいということだ。というのは、ホームランを打ちたい打席で、相手バッテリーの配球を読み、駆け引きすることで、いろんな経験ができるわけだから。ホームランは意識しないと打てない。ホームランを意識した時点で打てなくなるという人がいるが、それは打ち方が悪いだけ。本塁打欲しさにバットが下から出るとボールは上がらなくなる。正しい打ち方をすれば、本塁打を量産できる。

優勝争いやタイトル争いというのは、誰もが経験できることではない。嫌でも力む場面で、いかに力を発揮できるか。大山も成長したからこそ、この位置まできた。この経験は、今後のプロ野球人生の財産になる。残り試合でベストを尽くし、来年につなげてほしい。