鈴木秀樹(左)にエルボーを見舞う納屋幸男(撮影・たえ見朱実)
鈴木秀樹(左)にエルボーを見舞う納屋幸男(撮影・たえ見朱実)

プロレスのDDT東京・大田区総合体育館大会のバックステージで、1人の男が涙を流していた。DDTのベテラン大石真翔(まこと=40)だった。リアルジャパンから移籍してきた大鵬3世、納谷幸男(24)の教育係として入団から面倒をみてきた。この日の鈴木秀樹とのシングル戦では、セコンドについていた。

納谷は、リアルジャパンから見違えるようになっていた。弱々しさや、自信のなさが消えた。技術的にはまだまだだが、ベテランの鈴木にひるむことなく立ち向かった。ゴングが鳴ると、いきなり体当たり。続けざまにエルボー6連発から、右ハイキック5連発とたたみかけるような攻撃で会場を沸かせた。

鈴木の強烈な反撃や、場外乱闘でのパイプイス攻撃にも心は折れなかった。痛がるしぐさも見せず、やられても、やられても何度も立ち上がった。相手への恐怖心も消えていた。相手をにらみ付ける目は、最後まで強い光を放っていた。最後は、鈴木の変形ネックロックにギブアップしたが、その表情はすがすがしかった。鈴木から背中をたたかれ「やればできるじゃん」と声を掛けられると、頭を深々と下げた。

バックステージで鈴木に「ボクの方が効いてますよ。練習したかいがありましたね」と声を掛けられると、大石は鈴木の肩に手を当てて泣き崩れた。「鈴木との試合が決まってから、彼の悩みや、この試合にかける気持ちとか、ずっと相談を受けていたからね。今日の試合で彼のトラウマも払拭(ふっしょく)されたと思います」と言って大石はまた涙ぐんだ。

リアルジャパンでは、大鵬3世ということもあり、大事に育てられた。ただ、リアルジャパンの興行は年3、4回。より実戦の多い場所を求め、佐山の承諾も得て移籍を決意した。納谷は「DDTに来て、気持ちが大きく変わった。ここで一から若手と一緒にプロレスを教えてもらって、どんなにやられても食らい付いていこうという気持ちになれた」と納谷も満足顔だった。

リアルジャパン時代も戦ったことがある鈴木は「あれだけの体のサイズがあって、やるべきことをやれば、ボクなんかよりずっと強くなる。今日は、ボクも気持ち良かったです」と温かいまなざしで言った。自分を変えようとして飛び込んだDDTで、大石に出会い、鈴木という好敵手を得て、納谷は大きく成長しようとしている。【桝田朗】

鈴木秀樹(右)にキックを叩き込む納屋幸男(撮影・たえ見朱実)
鈴木秀樹(右)にキックを叩き込む納屋幸男(撮影・たえ見朱実)