珍しい光景だった。千秋楽の朝、稽古場にいた貴源治が大柄の男と四つに組み合っていた。稽古場に記者は入れないため、外から窓越しに様子をうかがう。目を凝らして見ると、大柄の男は貴乃花親方だった。

 この日、7番相撲で勝ち越しを決めた貴源治にとっても驚きだった。「手取り足取りこうした方がいいと初めて言ってもらった」。効果てきめんだった。

 貴源治の双子の兄・貴公俊が付け人に暴行したことを、貴乃花親方は自分の責任だとした。元横綱日馬富士関の傷害事件の対応を巡り、日本相撲協会と対立。ピリピリとした雰囲気が、弟子に悪い影響を与えたと後悔した。だからこそ「少しでも気分転換になれば」と場所後半からは、これまでよりも近い距離で身ぶり手ぶりでの指導が増えた。

 「何が何でも師匠は師匠。親方が代わったら相撲を続けられない。2度と同じことが起きないように、部屋全体でなくそうとやっていきたい」と貴源治。貴乃花親方は「弟子と一緒に(自分も)育っていくべきだと思う」と決意した。師匠と弟子、一心同体で苦難を乗り越えようとしている。【佐々木隆史】