旧貴乃花部屋の小結貴景勝(22=千賀ノ浦)に、悲愴(ひそう)感はなかった。「力士とはどういう姿勢であるべきか。それを常に指導してもらった。相撲はもちろん、生活面とかも。貴乃花親方の弟子で角界に入ったので、教えてもらったことをそのままやっていくのが自分ができること」。はっきりとした口調で堂々と話した。

厳しい稽古で知られていた旧貴乃花部屋。トレーニングジムに通う関取が増えてきた昨今、「関取はジムに通わないのか?」と聞くと「僕は無理。部屋の稽古だけでオーバーワークです」と言う程だった。それは巡業先でも変わらなかった。貴景勝が新十両昇進を果たした16年から、元貴乃花親方(元横綱)が巡業部長になり、巡業では常に土俵下で目を光らせていた。全力士に平等に見ていたつもりだろうが、ついつい弟子に厳しくなってしまうのは親の性。幕内に番付を上げても、常に貴景勝は十両の申し合い稽古から参加。幕内と合わせれば、連日30番以上相撲を取っていた。おかげで力をめきめきとつけていった。

だが実は、1度だけ抜いたことがあった。それが旧貴乃花親方が、巡業を休んだ昨年の九州巡業だった。申し合い稽古に参加しても10番取るか取らないか。もちろん本場所で疲れ切った体を休めるのも大事な仕事で、負傷した箇所があれば満足に稽古もできない。ただ、これまでの巡業に比べると少なかった。新小結で臨んだ今年の初場所は5勝10敗。「稽古はしっかりやってきたつもりですけど…」と支度部屋で少しばつが悪そうに言ったのは印象的だった。

稽古はうそをつかない、というのを身をもって知った貴景勝。その後の春巡業、夏巡業では精力的に稽古土俵に上がった。夏場所10勝、名古屋場所10勝、秋場所9勝と結果も出した。「教えてもらったことをそのままやって-」。元貴乃花親方の教えを、これからもずっと胸に土俵に上がる。【佐々木隆史】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

巡業の朝稽古中に、弟子の貴景勝(右)の背後について四股の踏み方を熱心に指導する貴乃花親方(2018年8月5日撮影)
巡業の朝稽古中に、弟子の貴景勝(右)の背後について四股の踏み方を熱心に指導する貴乃花親方(2018年8月5日撮影)