関脇玉鷲(34=片男波)が涙の初優勝だ。遠藤を突き落とし、ただ1人2敗を守って逃げ切った。34歳2カ月での初優勝は、年6場所制となった1958年以降で2番目の年長。初土俵から90場所は史上4位のスロー記録となった。この日、第2子の男子も誕生し、最良の1日となった。1差で追っていた関脇貴景勝(22=千賀ノ浦)は豪栄道に押し出されて11勝4敗となり、場所後の大関昇進を見送られた。

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初土俵から15年が経過しても、どこか日本語がたどたどしい玉鷲が、はっきりと大声で叫んだ。「最高です!」。泣きながら笑っていた。初めての優勝インタビューで第2子の誕生を明かされると、場内の拍手が鳴りやまなかった。スポーツ歴がないまま、当時東大に留学していた姉を頼って初来日。運命に導かれるように角界入りし、つかんだ初優勝は「想像もしていなかった。夢だった。夢を実現できて今でも信じられない」と涙を流し続けた。

優勝は貴景勝との2人に絞られていた。前日14日目は、直前に貴景勝が勝って重圧を感じ、仕切りのやり方を忘れるほど緊張した。この日は玉鷲が先に土俵に上がり、余計なことは考えなかった。わずかに立ち遅れたがすぐに突き返した。圧力をかけ、いなしから突き落とした。新入幕の08年秋場所で大関経験のある出島を押し出した感触が「今も忘れられない」と、こだわる突き、押しで優勝。殊勲賞と敢闘賞も初受賞した。

観戦に訪れた両親や姉にも内緒だった第2子誕生のサプライズの裏で、優勝への決意を強めた。誕生したのは午前4時ごろ。玉鷲は1度、同2~3時ごろに病院を訪れたが、エルデネビレグ夫人から「大丈夫。私よりも相撲に集中して。少しでも寝て」と言われた。午前6時に再び病院を訪れ「数秒だけ会えた」と喜んだ。名残惜しかったが朝稽古へ。通常、千秋楽は朝稽古を行わないが、前日まで14日間続けたルーティンを優先。何より家族のことは1度忘れ、相撲に集中するという決意表明だった。

史上2番目の年長となる34歳2カ月での初優勝だが師匠の片男波親方(元関脇玉春日)は「技術や精神力は今が1番」と、成長を認める。昨年名古屋場所で、小手投げで対戦相手を次々と休場に追い込んだ際、師匠から「相手を痛めつけるのは相撲じゃない」と諭され、涙を流した。絵画や料理が得意で、体は大柄だが手先の器用さと繊細な心を持つなど女子力は高い。好きなドラマは「おしん」。耐えしのぶ女性を自身に重ね、頂点に立った。次は大関が期待されるが「思う存分、相撲を取って、みんなを喜ばせたい」。周囲を思い、いつまでも泣きながら笑っていた。【高田文太】