アン女王の統治(1702~1714年)は、英国がルイ14世の強大なフランスとの戦いを優位に進めた時代に当たる。

エリザベス、ヴィクトリア両女王に比べると知名度の低いアン女王は気まぐれで病弱だったと言われ、女王の覚えめでたい女官長が実質的に王宮を仕切っていた。「女王陛下のお気に入り」(15日公開)はその地位にあったレディ・サラと召し使いからしだいに女王の心をとらえ、取って代わるアビゲイルの確執を描く。「三角関係」はコミカルにも見えるが、これが当時の世界情勢とリンクする皮肉な図式が浮かび上がる。

レイチェル・ワイズが演じるサラは、見た目から聡明(そうめい)だ。17回も妊娠しながら、いずれも先立たれてしまった孤独な女王の支えになり、その一挙手一投足まで思いのままに動かす。アン女王役のオリヴィア・コールマンが受動的な甘え体質をかもし出し、「SM的」な2人のつながりが浮かび上がる。

対して、エマ・ストーン演じるアビゲイルは女王の通風の足を薬草で癒やしたり、子どもの生まれ変わりとして飼っている17匹のウサギを一緒にかわいがって、不動に見えた2人の間に割って入っていく。優しさからしだいに権力欲に目覚めるアビゲイル。終盤の怖いほどの表情をストーンがうまく出している。

サラの後ろには議会の戦争推進派ホイッグ党、アビゲイルには戦争終結派のトーリー党がくい込んでくるから、このさや当てもただごとではない。

王宮内は目を見張る調度品で満たされているが、当時を再現する薄暗さ。照明代わりとなるロウソクの火が演技巧者3人の表情を照らし出し、舞台劇のような趣がある。

監督はギリシャ・アテネ生まれのヨルゴス・ディヴィス。「英王室」を突き放すようなコミカルな描写に嫌みがないのは、紀元前から歴史を育んだギリシャ生まれの余裕だろうか。

3人以外では、トーリー党首ハーリーが印象的だ。「X-MEN」シリーズなどのニコラス・ホルトが当時ならではの大きなカツラをかぶりこなす好演だ。

ちなみにサラをフルネームで書けばモールバラ公爵夫人サラ・チャーチル。ウィンストン・チャーチルやダイアナ妃の祖先に当たるのだ。現代的にも見える当時の確執は文字通り近・現代につながっている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)