05年に公開された「男たちの大和」は記憶に残る映画だった。

巨大戦艦の最期を敗戦の象徴として描き、無謀な特攻作戦と知りながら、後世の礎となった海軍士官たちの姿が印象的だった。

空母を中心とする「航空主兵論」が主流となる中で、なぜ時代遅れの巨大戦艦が建造され、結果的に帝国海軍終焉(しゅうえん)の象徴となったのか。26日公開の「アルキメデスの大戦」は、数学的観点から巨大戦艦の建造を阻止しようとした異色の海軍将校の目を通して、そのいきさつが描かれる。

「男たち-」より10年余りさかのぼって始まる物語で、菅田将暉ふんする海軍少佐、櫂直は「男たち-」に出てくる将校のように諦観はしていない。ひたすらあがき、対米開戦のきっかけになりかねない巨大戦艦建造に異を唱える。

33年、ワシントン海軍軍縮条約から脱退した日本海軍は、当時の米軍艦のスケールをしのぐ「46センチ以上の主砲を搭載した新型戦艦」の建造を構想する。

ハーバード大留学や駐米大使館付武官の経験がある山本五十六少将(舘ひろし)は永野海軍中将(国村隼)の支持を得て、巨大戦艦の建造に反対し、限られた予算を空母に振り向けるように主張する。が、海軍省内は大角陸軍大臣(小林克也)平山造船中将(田中泯)嶋田海軍少将(橋爪功)ら推進派が優勢だった。

費用や効率から海軍大臣を説得するため、山本は東大を追い出された天才数学者、櫂に白羽の矢を立てる。軍隊嫌いの櫂だが、無謀な対米開戦を阻止するためと説得され、引き受ける。

にわかに「海軍主計少佐」となった櫂に省内は冷たく、協力はいっさい得られない。不本意ながらコンビを組むことになった田中少尉(柄本佑)とともに持ち前の閃きと行動力でデータを収集し、建造推進派に立ち向かうが…。

「ドラゴン桜」や「砂の栄冠」など、頭脳戦を扱ったコミックに定評のある三田紀房さんの原作だけに、戦艦大和を数学から解析し、海軍をサラリーマン組織のように描く視点が面白い。創作部分はもちろんあるが、史実が随所にちりばめられ、説得力のある筋立てだ。

ユニークな役柄を引き受けた菅田は、今回も成り切りぶりに感服する。43歳上の舘がクライマックス・シーンの撮影を振り返る。

「大和の建造を決める大会議のシーン。菅田くんは、数学的な長いセリフを機関銃のような勢いで話し、かつ、黒板に数式を書きながらそれをやってのけ、圧巻でした」

その舘も髪を切り、多くの戦争映画に登場する山本五十六の年齢より微妙に若い「10年前」を、いかにもという雰囲気で演じている。

菅田の熱演、コンビとなる柄本の巧演に圧倒されながら、気になったのが、櫂を懸命に口説いて主計少佐に起用しながら、その後は意外と淡泊な舘の山本少将と、知性の塊のように見えながら大和建造派としてまったくぶれない田中泯の平山造船中将だ。

終盤に明かされる2人の本音に、なるほどと肯かされるところにこの映画の奥行きがある。他に笑福亭鶴瓶、小日向文世、紅一点の浜辺美波と配役には無駄がない。

そして脚本、監督は山崎貴。ドラマからVFXまで、今回も見せ場を心得て、よどみない娯楽作品に仕上げている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)