銀行のATMなどで、たまに現金輸送のスタッフを見かける。小さな町の商店街では、防弾チョッキにヘルメットの「重武装」はちょっと浮いた感じがする。

04年のフランス映画「ブルー・レクイエム」は、そんな現金輸送車に乗る人たちにスポットを当てたユニークな作品だった。

現金輸送車の襲撃事件に巻き込まれ、幼い息子を失った主人公は、犯行グループを突き止めるためにその運営会社に就職し、現金輸送車のスタッフとなる。演じたのが「天国でまた会おう」(17年)で監督、主演したアルベール・デュポンテルだったので、主人公は復讐に燃えながら、かなりナイーブなキャラクターになっていた。

クライム・アクションの傑作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(98年)のガイ・リッチー監督とジェイソンステイサムが再びコンビを組み、ロサンゼルスに舞台を移してリメークした「キャッシュ・トラック」(10月8日公開)は、かなりいかつく上書きされている。

現金輸送専門の「武装」警備会社には特殊な訓練を受けた強者が集っている。新人の通称H(ステイサム)は目立たない存在だったが、彼の乗った輸送車が実際に襲撃されると、驚くような戦闘スキルと容赦ない姿勢で武装グループを皆殺しにしてしまう。

一方で、元軍人で構成されたある武装グループが、現金が集中する「ブラック・フライデー」に向けて、前例の無い強奪計画をひそかに進めていた。Hの正体は? その狙いは? そして警備会社に潜んでいる犯行グループの内通者は誰なのか?

堅牢(けんろう)な輸送車の側壁を焼き切って侵入口を開ける手法や、ドスッドスッと聞こえる銃撃音が何とも重い。「ガイはリアルに撮りたくて、僕に格好良くて滑らかな動作をさせないようにしました」とステイサムが明かす演出は、まるで現実のようにヒリヒリと恐ろしさを伝える。

クライマックスで武装グループが着用する宇宙服のようなボディーアーマーにもリアリティーがある。「24」シリーズでジャック・バウアーがこれを着た場面を覚えているが、終盤は戦闘を超えて戦争だ。

ホルト・マッキャラニー、ジョシュ・ハーネット、そして紅一点のニアム・アルガー…警備員仲間に漂うやさぐれ感もいい。輸送車管理のエディ・マーサン、敵役のジェフリー・ドノバンと誰もがリッチー作品の仕事を楽しみ、それぞれに個性を立てている。

オリジナルの「ブルー・レクイエム」とはひと味もふた味も違う展開、そしてラストシーンに留飲が下がった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)