ソウル五輪から3年後の91年、韓国は国連加盟を目指して、多数の投票権を持つアフリカ諸国へのロビー活動に励んでいる。

ソマリアの首都モガディシュに赴任したハン大使もそんな使命を帯びた1人だった。北朝鮮も同様に国連加盟を目指しており、アフリカへの浸透では20年先んじているこちらは、リム大使のもとで陰に陽に韓国の活動を妨害している。

両大使の下にはそれぞれ諜報(ちょうほう)畑の参事官がNo.2として控えているから、工作合戦はし烈を極めている。

実話を元にした「モガディッシュ 脱出までの14日間」(7月1日公開)は、そんな状況で幕を開ける。

両国が必死に食い込むソマリア政府は実はかなり腐敗しており、反政府勢力は日に日に力を増して、内戦が激化している。ついには外国の大使館も攻撃対象となり、予想外の速度で国外脱出を余儀なくされる。宿敵同士の南北大使館員が否応なく協力し、繰り広げる決死の脱出劇がこの作品の見どころだ。

遠いアフリカで起きた出来事に当時の韓国内は関心が薄く、このドラマチックなてん末をスクープした中央日報の記事も、注目されることがなかったという。韓国でも「歴史秘話」的題材なのである。

ましてや日本では、というわけで「知られざる史実」への好奇心とそれゆえの先の読めない展開がエンタメ性をアップさせる。

リュ・スンワン監督は「韓国のタランティーノ」と呼ばれているそうで、「平和な」工作合戦の最中に、それどころではない内戦の「不穏の影」を巧みに見え隠れさせる。

そして、両大使員には予測の付かないスピードで反乱は勢いを増す。明かりを消した韓国側の大使館に合流した両陣営の手探りの心理劇もスリリングで、度を越えた緊張感が時に笑いを誘う。

モロッコでオールロケしたアクションシーンの数々、特にカーチェイスの迫力は半端ない。想像以上にお金がかかっている。銃撃を防ぐために乗用車のボディー全体に書物や砂袋を貼り付けるのは北朝鮮側のアイデアだが、実話ならではリアリティーがあった。

韓国大使役には「チェイサー」のキム・ユンソク。部下の参事官役には「ザ・キング」のチョ・インソンと一線級の共演だ。実は2人は初顔合わせで、だからというわけではないだろうが、役柄上の微妙な距離感がいい具合にはまって見えた。北朝鮮大使には「シルミド」のホ・ジュノ、同参事官に「新感染列島 ファイナル・ステージ」のク・ギョファンと、よく見る顔がそろって、キャスティングにも大作感がある。

アクション、人間ドラマ、そしてユーモアがあんばい良く配合され、エンタメ王国韓国で昨年度興行1位になったというのもうなずける。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)