ジョニー・デップが、暴力を受けたと主張する元妻で女優のアンバー・ハードを名誉毀損(きそん)で訴えていた裁判に勝訴し、離婚裁判からのべ6年間にわたってくり返し主張してきたことがようやく認められ、長い戦いがやっと幕を閉じました。

ジェフ・ベックのコンサートに参加するため会場に到着したジョニー・デップ(6月2日、AP)
ジェフ・ベックのコンサートに参加するため会場に到着したジョニー・デップ(6月2日、AP)

2人が離婚したのは2017年のことですが、今回の裁判はハードが2018年にワシントン・ポスト紙に「自身は家庭内暴力(DV)の被害者」だと寄稿したことが発端となっています。ハードは記事でデップの名前こそあげていないものの、これまでの流れから加害者がデップであると容易に推測できるため、「公のイメージを傷つけられ、キャリアに影響を及ぼした」として5000万ドルの損害賠償を求めてハードを提訴したものでした。

一方のハードもデップ側の「DV疑惑はでっちあげ」という発言が自身の名誉を毀損したとして1億ドルの損害賠償を求めて反訴し、裁判の模様は連日テレビ中継され、全米がその行方に注目していました。

デップはこれまで一貫してDVを否定している一方、ハードは婚姻中から度々デップに暴力を振るわれていたと主張しており、一方がうそを言っているのは明白で、どちらの話が本当なのかが裁判の争点になっていました。

ちなみに、2018年に英サン紙がデップを「DV夫」と報じたことから同紙の発行元を訴えていた裁判では、イギリスの裁判所が記事の内容はおおむね事実だと認定してデップは2020年に敗訴しています。それが今回は一転してDVはなかったというデップ側の主張が認められ、「陪審員が私の人生を取り戻してくれた。心から感謝している」とデップは喜びのコメントを発表しています。

そもそも、なぜ前回敗訴したデップが今回の裁判では逆転勝訴することができたのでしょう。今回はイギリスでの裁判とは違い、陪審員による評決だったことが1つの要因として指摘されています。これについては、敗訴後にハードの弁護士もネットでのハードに対するネガティブな投稿や誹謗中傷が審議に影響を及ぼしたと述べています。

判決前に陪審員席に目をやるアンバー・ハード(中央)(6月1日、AP)
判決前に陪審員席に目をやるアンバー・ハード(中央)(6月1日、AP)

イギリスの裁判は裁判官による判決だった一方、今回は法の専門家ではない陪審員による評決だったことは大きな違いではありますが、医師の診断書や目撃者など、ハードがDVを受けたことを立証する確かな証拠を提示できなかったことも事実です。顔のあざの写真もこの時代はフォトショップなどで簡単に加工できるだけでなく、ハード側の弁護士が法廷で「あざを隠すために使っていた」と語ったコンシーラーは、当時未発売の商品だったことが判明。また、「何度も蹴られて殺されると思った」と証言するも、それだけ酷いDVを受けていながら病院で手当を受けるようなけがをしていないことに違和感を覚えた人も少なくなかったと思います。

もちろんハードの主張を徹底的に否定し、信頼性を攻撃するデップ側の戦略がうまくいったという見方もありますが、他にデップからDVを受けたという人もおらず、証言した元恋人のケイト・モスもデップに階段から突き落とされた疑惑を完全否定する中、ハード側は自身の主張を裏付ける証人を呼べなかった戦略的ミスもありました。その結果、うそにうそを重ねたことで最後は引くに引けなくなったという印象を与え、7人の陪審員全員がデップの主張が正しいと信じ、ハードの主張は虚偽であると認めたことで完全に立場が逆転したといえます。

ハードの弁護士は、「賠償金は絶対に支払えない」と述べており、上訴する意向を示しています。ハードは来年公開予定のヒロインを演じた「アクアマン」の続編から降板させられる可能性も取り沙汰されており、裁判に敗訴したことで今後のキャリアにも少なからず影響が及ぶことは避けられません。裁判費用に加え、旅行や衣服、ワインに贈り物などこれまでの贅沢な暮らしによって破産状態にあるとも言われており、再び泥沼のバトルが繰り返されることになるのか今後のハードの出方に注目が集まっています。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)