ニッカンスポーツ・コムの連載「われら第7世代!~演歌・歌謡曲のニューパワー~」で「第7世代」として注目の若手歌手を音楽担当の笹森文彦記者が紹介します。今回から辰巳ゆうと(23)の登場。演歌はもちろんロマンチックな作品も歌い、シングルCDはカップリング曲も充実。引き出しの多彩さも魅力です。

さわやかな笑顔を見せる辰巳ゆうと
さわやかな笑顔を見せる辰巳ゆうと

辰巳の両A面シングル「誘われてエデン/望郷」のEタイプ、Fタイプが10月13日に発売される。カップリング曲が異なるA、B、C、Dの4タイプを既に発売している。

「誘われてエデン」(作詞・咲島レイ、作曲YORI、編曲・野中“まさ”雄一)は禁断の恋をロマンチックな歌詞に乗せ、甘い歌声で時に情熱的に歌い上げる。「好きさ 好きさ…」と連呼するフレーズが印象的だ。

「望郷」(作詞・久仁京介、作曲・四万章人、編曲・伊戸のりお)は、ゆったりとした曲調の望郷演歌。都会で暮らす息子を思う両親の普遍の愛が伝わる。こぶしとキレのある歌声で聞かせる。

ポップスと演歌の両A面で、テーマはもちろん、歌い方も全然違う。前作も「センチメンタル・ハート/男のしぐれ」と異種の両A面だった。

辰巳 「下町純情」でデビューさせていただき、これから僕はずっと演歌を歌っていくんだと思っていました。ポップス系の曲をいただいた時は、少し困惑はありましたが、自分が歌ったら、どうなるんだろうという気持ちもありました。「センチメンタル-」も「誘われて-」もロマンチックな歌詞で、ストレートな感情や普段恥ずかしくて言えないようなことも、歌詞に乗せて伝えています。デビューから応援してくださっている方には、いつもとは違った感情や思いが届けばいいなと思っています。そして、演歌や歌謡曲をあまり聴かない世代の方には、これをきっかけに、演歌ってどんな曲があるのかなと、少しでも興味を持ってもらえるきっかけになればと思って、歌っています。

演歌とポップスを歌う歌手は珍しくないが、「両A面」とする歌手はなかなかいない。演歌ファンだけでなく、ポップス系のファンにもアピールできる利点はあるが、両方を歌いこなすのは難しい。演歌独特のこぶしや節回しが、プロだからこそ邪魔をすることもある。だが、辰巳は発声の仕方や強弱などを変えて、別人のように歌いこなしている。口の開け方の違いは一目瞭然だ。

辰巳 僕は意識していないんですけど、そう言っていただくことが多いです。無意識に変わっているのでしょうね。演歌は慣れ親しんでいるので、そこまで強い意識を持たなくても、こぶしを回すことができたり、ある程度歌えるかなと思います。でもポップス系は「センチメンタル-」からほぼ初めてみたいな感じだったので、どちらかと言うと、より大切にというか、そういうふうに考えていますね。

これまで発表したシングルCDのカップリング曲の多彩さと完成度の高さも、その才能にさらに磨きをかけている。「誘われてエデン/望郷」は10月13日にEタイプとFタイプが発売される。AとBタイプを1月に、CとDタイプを5月に発売しており、今回で計6タイプとなる。

辰巳 いろんなタイプを出させてもらえるのは、聴いてくださる皆様が1枚1枚CDを手にとって、応援してくださるからこそ、です。それがスタッフの方の「じゃあ、また新しいタイプを出そう」という思いにつながります。皆さまがいろんなタイプを応援してくれるからこそ、です。

カップリング曲やジャケット写真、封入の特典などを変え、○○タイプや「秋盤」「追撃盤」などとして発売するのは、メインの新曲をより多くの層に届けるための重要な販売戦略だ。演歌やポップスに限らず、アイドルグループも積極的に行っている。かつてB面と言われたカップリング曲はそれほど存在感はなかったが、今は販売戦略上、極めて重要なのである。

辰巳のA~Fタイプには当然、6曲のカップリング曲がある。順にタイトルを並べると、Aが「青春酒場」、Bは「恋」、Cは「逢いたかったよ」、Dが「情熱太鼓」。そしてEタイプは「獅子になれ」、Fタイプは「夢をひらいて」。この中でカバー曲は「恋」(松山千春)だけで、5曲がオリジナル曲。例えば「青春酒場」は若かった頃に通ったなじみの酒場に、時を経て訪ねる主人公の心情を歌う。「逢いたかったよ」は男の友情がテーマだ。Eタイプ「獅子になれ」は、演歌作品で、苦難にもはい上がる男の生きざまを力強く歌う。Fタイプの「夢をひらいて」のテーマも男の生きざまだが、こちらは昭和の青春映画の主題歌のような作品。5曲のオリジナル曲は、どれも完成度は高い。

辰巳 メインの曲でもいいんじゃないかなって毎回思っています。カップリングというと、どうしてもサブみたいな印象がありますけど、僕は全部がメインの曲だと思って歌っていますし、そういった歌がどんどん増えていけばうれしいです。

ちなみにデビュー曲「下町純情」は2タイプ。第2弾「男の純情」は4タイプ。「センチメンタル-」も4タイプが発売された。合計すると10タイプで、カップリング曲も10曲。うちカバーは3曲で、7曲がオリジナル曲である。「誘われてエデン/望郷」と合わせると、カップリングだけで12曲のオリジナル曲を持っていることになる。これにメイン曲を加えると計18曲。持ち歌だけでコンサートができる曲数である。

辰巳 いろんな歌を歌えることが本当にうれしいです。全部大事に歌っていきたい。1人で歌っていても、違うジャンルやテーマを歌えば、違う「辰巳ゆうと」になれる。でも全部が辰巳ゆうとです。演歌でもロマンチックな歌でも辰巳ゆうとが好きと言ってくださるなら、ジャンルにこだわらず、ぜひ一緒にコンサートなどを通じて、歌を聴いていただきたいなと思います。(つづく)

辰巳ゆうとの「誘われてエデン/望郷」Eタイプのジャケット
辰巳ゆうとの「誘われてエデン/望郷」Eタイプのジャケット
辰巳ゆうとの「誘われてエデン/望郷」Fタイプのジャケット
辰巳ゆうとの「誘われてエデン/望郷」Fタイプのジャケット

◆辰巳(たつみ)ゆうと 1998年(平10)1月9日、大阪府生まれ。祖父の影響で幼少から演歌に親しむ。10年「ティーンズカラオケ大会」で優勝。現在所属の長良プロダクションにスカウトされ、高校からレッスン開始。大学進学を機に上京、歌手デビューを目指して都内などで週2回程度のペースでストリートライブを実施。18年にビクターエンタテインメントから「下町純情」でデビュー。同年の日本レコード大賞で最優秀新人賞。2作目「おとこの純情」はオリコン週間演歌・歌謡シングルランキングで1位。趣味はソロキャンプ、バルーンアート、スーツ料理。173センチ、血液型A。

◆第7世代 もともとは若手芸人が18年ごろに提起した、主に10年以降にデビューした芸人の総称。これを機に第1世代(コント55号、ザ・ドリフターズら)から第7世代までの世代区分が生まれた。この発想を戦後歌謡界に当てはめたのが演歌・歌謡曲版。デビュー年や初ヒット年を参考に、第1世代が春日八郎、三橋美智也、三波春夫、村田英雄ら。第2世代が美空ひばり、島倉千代子、橋幸夫、北島三郎、舟木一夫ら。第3世代が森進一、千昌夫、五木ひろし、都はるみ、水前寺清子、大月みやこ、八代亜紀ら。第4世代が石川さゆり、小林幸子、川中美幸、坂本冬美、伍代夏子、香西かおり、藤あや子、細川たかし、吉幾三ら。第5世代水森かおり、氷川きよし、北山たけしら。第6世代が山内恵介、三山ひろし、福田こうへい、丘みどり市川由紀乃ら。


◆笹森文彦(ささもり・ふみひこ) 北海道生まれ。早大第1文学部心理学科卒。83年入社。文化社会部で長年音楽記者。初代ジャニーズ事務所担当。演歌・歌謡曲やアイドルだけでなく、井上陽水、矢沢永吉、松山千春、長渕剛、アリス、中島みゆきら数多くのミュージシャンをインタビュー。93年から日本レコード大賞審査員、16年は審査委員長。テレビ朝日系「ワイド!スクランブル」「スーパーモーニング」、テレビ朝日系東北6県番組「るくなす」、福岡放送「めんたいワイド」などにコメンテーターとして出演。座右の銘は「鶏口牛後」。血液型A。

「われら第7世代!~演歌・歌謡曲のニューパワー~」は毎週日曜更新です。