恐れていたことが起こってしまった。松本白鸚(79)のファイナル公演となるミュージカル「ラ・マンチャの男」(東京・日生劇場)が、8日から12日まで公演中止となった。公演関係者に陽性者が出たためだった。

9日夜に見る予定をしていた。1979年に初めて見て以来、再演の度に劇場に出かけていた。20回近く見ていて、好きなミュージカルの1つだった。しかも、今回は昭和、平成、令和と半世紀以上も演じてきた白鸚のファイナル公演とあって、今月見る予定だった舞台の中でも最も楽しみにしていた。

しかし、心配もあった。公演関係者に陽性者が出て中止したり、初日が延期となる公演が相次いでいたからだった。「ラ・マンチャの男」でも出演者、スタッフなど関係者は、無事に公演が完走できるように万全のコロナ対策をとっていたが、初日から3日目に公演関係者から陽性者が出てしまった。観劇前日に中止が決まり、もう見ることはできなくなった。チケットはすべて完売しており、他の日への振り替えもできない。

かすかな希望を抱いて、やむを得ない事情で見に行けなくなった人のチケットをリセールする業界公認の公式サイト「チケトレ」をのぞいてみたが、売りに出されているチケットはなかった。そして、転売チケットを扱うサイトを見ると、そこにはチケットがずらりと並んでいた。定価はS席1万4500円だけれど、倍以上の値段が付けられ、千秋楽の28日には4万円、5万円と高騰していた。そして、すべてが取引完了か取引中だった。

2019年に「不正転売禁止法」が施行され、転売チケットでは入場を断られるケースが多いけれど、それでも買ってしまう人がいる。不正な行為に加担するのは、「事実は真実の敵なり」と正義を求め続けたラ・マンチャの精神に反するだろう。

見ることはもうかなわなくなった今、これまでに見てきた「ラ・マンチャの男」の数々の場面、白鸚が歌う「見果てぬ夢」など曲で感動した記憶を大事にしていきたいと思っている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)