10月スタートの秋ドラマが出そろった。東京五輪のあおりで見応えが乏しかった夏ドラマから一転、各局とも確かな演技力の持ち主を起用した勝負作が並び、ジャンルも多彩。久しぶりに星2つの作品がないシーズンとなった。「勝手にドラマ評」48弾。今回も単なるドラマおたくの立場から勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(シリーズもの、深夜枠は除く)。

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月9ドラマ「ラジエーションハウス2~放射線科の診断レポート~」
月9ドラマ「ラジエーションハウス2~放射線科の診断レポート~」

◆「ラジエーションハウス2~放射線科の診断レポート~」(フジテレビ月曜9時)窪田正孝/本田翼

★★★★☆

2年ぶりの続編も快調。あらためてのキャラ紹介と“天才の帰還”のお膳立てをベタに済ませ、医師なのに技師として働く主人公のキャラクターと、「写真には必ず真実が映る」という作品のドラマ性に集中したのは好感。師長、バイオリニスト、妊婦の3つの症例から、主人公の優秀さとチーム力をうまく再始動させた。「それでいいんでしょうか」みたいな天才の振る舞いと、杏ちゃんへのずっこけた片思いを今回も窪田正孝が最高のチューニング。医療モノに頼る月9の体質はさておき、ポップでキラキラした後味はこれぞ月9で、EDであの主題歌が流れるだけで心躍る。院内をランウエーみたいに歩く本田翼にももう慣れた。

月10ドラマ「アバランチ」(C)フジテレビ
月10ドラマ「アバランチ」(C)フジテレビ

◆「アバランチ」(フジテレビ、月曜10時)綾野剛/木村佳乃/福士蒼汰

★★★★☆

法が裁かない悪に私刑を下す謎の集団「アバランチ」のダークな活躍。春ドラマで人魚と恋していた綾野剛がアクションに帰還。キレキレ、ヒリヒリのかっこよさに、綾野剛はやっぱこっちだよと心躍る。福士蒼汰の若手感、武闘派高橋メアリージュンのやばい女感、IT頭脳千葉雄大のキュート感など、全員が持ち味のど真ん中で勝負し、ちゃんと超えてくる。映画監督藤井道人の迫力の映像美。韓国ドラマの独壇場となっている警察サスペンスで、国産の現在地が少し分かってホッとする。「ネット私刑」というやり方には共感できないが、「ザ・ハングマン」の昔からこのジャンルのお仕置きは悪趣味くらいがちょうどいいのかも。

◆「婚姻届に判を捺しただけですが」(TBS火曜10時)清野菜名/坂口健太郎

★★★☆☆

前作「プロミス・シンデレラ」に続き、金に困っている女子が、金持ち男子の無理難題に従うお話。今回は「500万円貸すから僕と偽装結婚しろ」の巻。コロナで女性の貧困がいよいよ深刻化している時代に、金のために戸籍に手をつける展開をラブコメとして笑う気分になれなかった。偽装結婚から始まる恋とあって「逃げ恥」と比較する声も多いが、動機や人物の主体性はまったく違うかと。2話で互いを知り始めて少しテンポが上がった。返済額が減るほどキュンが増していくロジックはきちんと描かれそうなので、好きな人はぜひ。個人的には「ハコヅメ」「恋です!」とフレッシュな快作を連発している日テレ水曜ドラマの方に勢いを感じる。

水曜ドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(C)NTV
水曜ドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(C)NTV

◆「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(日本テレビ水曜10時)杉咲花/杉野遥亮

★★★★★

視覚障害者とヤンキー。出会うはずのない2人の恋と成長がみずみずしいラブコメに。勝ち気で頑張り屋な女子高生ユキコと、純情で舎弟のようになついてくる黒川のほほえましいコンビネーションを、杉咲花、杉野遥亮が生き生きと見せてくれる。点字ブロック、声の身長差を埋めるハイヒールなど、視覚障害をしっかり描いた胸キュンの輝きたるや。目が見える「普通」と、まじめに生きてきた「普通」。思ってもみなかった自分の中の「普通」が響き合い、白杖を手に力強く人生を切り開いていくユキコも、ふさわしい人間になろうといちずな黒川も応援しがいがある。恋の力、若い力ってこういうこと。思わずユキコさんを抱き締める杉野遥亮の破壊力に息止まる。

木曜劇場「SUPER RICH」(C)フジテレビ
木曜劇場「SUPER RICH」(C)フジテレビ

◆「SUPER RICH」(フジテレビ木曜10時)江口のりこ/赤楚衛二

★★★★☆

共同経営者の裏切りで金を失ったセレブCEOがゼロからの再出発。おしゃれスーツを着こなす江口のりこ、ノーメークで土下座する江口のりこ、悔し涙で戸次重幸を殴る蹴るの江口のりこ。この人と働きたいと思わせる人間味が目にしみて、主演が魅力的に見えるという一択で視聴継続。36歳で初めて金に悩むおもしろ設定の中、ビンボー就活生(赤楚衛二)という異色の戦力を得て、どう稼いで、どう使うか。「金は可能性」の逆転劇を楽しみたい。好みで言えば5だが、登場人物が多すぎて本線に一押し足りない気がするので4。まさかとは思うが、この物語はラブの方向性には持っていかないでほしい。

金曜ドラマ「最愛」(C)TBS
金曜ドラマ「最愛」(C)TBS

◆「最愛」(TBS金曜10時)吉高由里子/松下洸平/井浦新

★★★★★

「アンナチュラル」など金曜ドラマの黄金コンビ、新井順子P×塚原あゆ子監督のオリジナル。初恋の2人が15年後、殺人事件の重要参考人×刑事として再会するラブサスペンス。故郷がカギを握る「Nのために」っぽさと、難病、異母姉弟、事故、記憶喪失など韓国ドラマみたいな要素がすごい設計図で人間ドラマとして描かれ、次が気になる展開力と、ヒロインのしぶとさ、切なさに引き込まれる。松下洸平、井浦新それぞれの包容力もかっこいい。1話は松下、2話は吉高がナレーション。誰かの「最愛」の視点で語られていく仕掛けなのかもしれないが、タイトルにするにはジャンルが紛らわしく、客を取りこぼしていそうな今期のワーストタイトル賞。

◆「和田家の男たち」(テレビ朝日金曜11時15分)相葉雅紀/佐々木蔵之介/段田安則

★★★☆☆

新聞記者の祖父(段田安則)と、テレビ局報道マンの父(佐々木蔵之介)を持つ37歳無職(相葉雅紀)がネット記者デビュー。男3人で始まった同居生活を脚本大石静が描く。1話は相葉のフレッシュな仕事始めにほっこり。新旧メディアの価値観の違いがテンポのいい笑いになっていて、孫の書いたアルパカのネット記事がくだらなすぎて泣く段田安則に爆笑した。何げなくアップした動物写真が政界スクープとなり、歓喜より怖さを知った主人公の実直さもいい。この先、母親の死の謎に3世代アプローチで向き合う流れだと思うが、まだ1話なのでひとまず3。出てくる家庭料理がおいしそうで、飯テロドラマの要素もあり。

土曜ドラマ「二月の勝者-絶対合格の教室-」(C)NTV
土曜ドラマ「二月の勝者-絶対合格の教室-」(C)NTV

◆「二月の勝者-絶対合格の教室-」(日本テレビ土曜10時)柳楽優弥/井上真央

★★★☆☆

中学受験界の型破り講師の手腕。「合格に導くのは父親の経済力と母親の狂気」「中学受験は課金ゲーム」。パワーフレーズに力負けしない柳楽優弥の目ヂカラが上等。高校受験や東大受験と違い、親の意向が大きい中学受験は大人サイドの描写が多め。お子さま別の理論武装にこの人の優秀さと生徒愛がにじみ、結果で親を黙らせてシレッとカネを引っ張るビジネス手腕も痛快。親に振り回されるサッカー少年、勉強嫌いな鉄道キッズなど、やる気スイッチの見つけ方、押し方もうまい。「凡人こそ中学受験を」の哲学がドラゴン桜とかぶるのも現場感がある。もう少し激辛かと思ったがハートフル寄り。全体的に親の物分かりがとても良い。

日曜劇場「日本沈没-希望のひと-」(C)TBS
日曜劇場「日本沈没-希望のひと-」(C)TBS

◆「日本沈没-希望のひと-」(TBS日曜9時)小栗旬/松山ケンイチ/香川照之

★★★☆☆

小松左京のSF小説の金字塔を令和の映像技術でどう描くのか期待したが、3話現在、サイエンスの要素はほぼなく、いつもの政治ドラマの感。国土のピンチというより、分かりやすい敵を相手に主人公の官僚生命のピンチの方で展開中。未来推進会議、官邸で会議、居酒屋で会議…。日曜劇場特有の会議室描写が長く、日本が沈没する気が全然しない。ミスター日曜劇場香川照之のせりふ回しがいよいよ歌舞伎に。日曜劇場の芸風が好きな人には間違いのない作りだが、SF派としてはこれじゃない感。

日曜ドラマ「真犯人フラグ」(C)NTV
日曜ドラマ「真犯人フラグ」(C)NTV

◆「真犯人フラグ」(日本テレビ日曜10時半)西島秀俊/宮沢りえ/芳根京子

★★★☆☆

企画・原案秋元康で「あなたの番です」のスタッフ再集結。妻子の失踪で幸せが一変した主人公(西島秀俊)が真相を探る。奇妙な人物たちに思わせぶりな演技をさせ、犯人は誰だの娯楽を提供する“考察班”向けコンテンツ。ヘンなものが送られてきたり、死体と思ったら靴だけだったり。大いにあおって3話も「ダンナの自作自演説」で足踏み中。家族が失踪しているのに、ダンナがのんびりとポンコツなのはツボ。話についていけず迷子になったり、変なお笑いに付き合わされるのはツインピークスの時代からのお約束なので、好きな人はぜひ。「あな番」には挫折したが、西島秀俊と芳根京子なのでもう少し見る。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)