中村勘三郎さんの遺志を継ぎ、中村勘九郎、中村七之助が東京・赤坂で開催してきた人気の舞台「赤坂大歌舞伎」(赤坂ACTシアター)。

舞台「赤坂大歌舞伎」。左から、中村勘九郎、中村七之助
舞台「赤坂大歌舞伎」。左から、中村勘九郎、中村七之助

08年からの歴史にひと区切りとなる舞台で、笑福亭鶴瓶の新作落語を歌舞伎にした「廓噺(さとのうわさ)山名屋浦里」が上演されています。人情あふれる物語と、浦里を演じる七之助の花魁(おいらん)道中の美しさ。ラストにふさわしい晴れ晴れとした光景に、鶴瓶→勘九郎とバトンされた演目の力と、シリーズの魅力を実感しました。

物語は、遊郭など縁のないきまじめな田舎侍と、吉原の頂点に立つ人気の花魁、浦里の純愛です。大名ですら簡単に会えない売れっ子の浦里が、事情を抱えた侍のために一肌脱ぎ、最高の形で力になってくれます。引き受けた背景には浦里なりの思いがあり、人間模様の大きな見せ場となっていきます。

気高く、美しく、かっこいい浦里を七之助が生き生きと見せてくれて、登場しただけで劇場ごと遊郭へ連れて行ってくれる感じ。「鬼滅の刃 遊郭編」も楽しみですが、目の前で動き、生きざまを表現する花魁のオーラはまた格別です。浦里とともに泣いたり笑ったりしながら、生きるパワーを大いにもらいました。

ハッピーエンドというのもいいですよね。七之助によれば、「歌舞伎の女形って、前半あれだけ一生懸命やったのに、一幕で終わりとか、死んで終わりとか、幕切れにいないことが多いんですけど、この『浦里』はいろんな色を見せながら最後までいるので得なんです」(制作発表会見)。基本的に登場人物が変わらない落語原作ならではのストーリーで、女形ファンにはうれしい演目といえます。

「赤坂大歌舞伎」を上演している赤坂ACTシアター
「赤坂大歌舞伎」を上演している赤坂ACTシアター

演目の成り立ちもまたハッピー。元になったのは、タモリがNHK「ブラタモリ」で吉原を訪れた際に知ったという実話です。それを聞いた鶴瓶が落語にし、その高座を見て感動した勘九郎が歌舞伎にしました。16年に歌舞伎座で初演されると、歌舞伎の伝統にはないカーテンコールが起こったというのも納得です。ACTシアターは歌舞伎座ほど大きくなく、花道もありませんが、その分、浦里の美しさやその息づかいを間近に感じられて、お得感がありました。

予習いらずで歌舞伎を楽しめる場として親しまれた「赤坂大歌舞伎」ですが、ACTシアターが22年夏から舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」の専用劇場に改修されるため、今回でひと区切りとなります。エンディングの演目「宵赤坂俄廓景色」は、赤坂とACTシアターへの感謝を凝縮した、いい大団円でした。

誰もがしんどいこのご時世、歌舞伎や落語など、はるか昔から困難を乗り越えてきた伝統芸能が底力を見せてくれていると、不思議とホッとします。力強い余韻が胸に残り、またひとつ忘れられない舞台になりました。いつか復活することがあれば、予習なしで駆け付けたいと思います。

東京・赤坂ACTシアターで11月26日まで。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)