声優の森山周一郎さんが8日に肺炎のため86歳で亡くなった。米俳優テリー・サバラスが主演したテレビドラマ「刑事コジャック」が好きで、その渋い声を担当した森山さんも好きになった。私にとって、森山さんは映画「紅の豚」よりも「刑事コジャック」の印象が強烈だった。

声優は今や、人気の職業である。中学女子のなりたい職業1位にもなった。特に女性の声優はアイドル的な人気を誇っている。最近では映画「鬼滅の刃」で竈門禰豆子を演じた鬼頭明里や花澤香奈、内田真礼らが人気だ。アニソン歌手と表裏一体の声優も多く、中には日本武道館を満杯にする人気者も数多い。人気声優の活躍の場は、かつての洋画や海外ドラマの吹き替えから、アニメが主流になっている。

森山さんが活躍した時代にも、もちろんアニメ番組はまず多くあったが、洋画や海外ドラマの声優というイメージが強かった。例えばテレビ朝日系の「日曜洋画劇場」や日本テレビ系の「水曜ロードショー」のように、洋画を放送するレギュラー番組が民放各局にあった。さらには「刑事コジャック」のような海外のドラマも数多く放送された。そこから「この俳優といえば、あの声優」という構図が生まれた。

アラン・ドロン(野沢那智)グレゴリー・ペック(城達也)ハンフリー・ボガート(久米明)ショーン・コネリー(若山弦蔵)ピーター・フォーク(小池朝男)キーファー・サザーランド(小山力也)オードリー・ヘプバーン(池田昌子)マリリン・モンロー(向井真理子)ジュリー・アンドリュース(武藤礼子)などなど。

同じ洋画でも放送するテレビ局が違うと、声優が変わることもよくあった。前述のテリー・サバラスは大平透の吹き替え盤もあった。「この俳優はこの声」と刷り込まれているので、違う声優だと違和感を感じるケースもあった。

今は「日曜洋画劇場」のような番組はほとんど見かけない。ネットを通して、好きなときに好きな洋画を見られる時代になったからだろうが、「来週、あの映画やるんだ!」とワクワクした気持ちが懐かしい。

洋画番組がなくなったことで、映画解説者の名調子も生まれなくなった。淀川長治さんの「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」。水野晴郎さんの「いやぁ、映画って本当にいいもんですね」。増田貴光さんの「来週もまた、あなたとお会いしましょう!」。木村奈保子さんの「あなたのハートには、何が残りましたか?」などなど。とても懐かしいのだが、時代の変化は致し方ない。【笹森文彦】