ドラマ「北の国から」や映画「若大将」シリーズなどで知られる俳優田中邦衛(たなか・くにえ)さんが3月24日午前11時24分、老衰のため死去した。88歳。岐阜県出身。葬儀は家族で行った。

「北の国から」で2人の子を持つ黒板五郎を演じ、厳しくも温かい父親像で幅広い人気を得た。12年に親友地井武男さんの「お別れの会」に出席後は公の場に姿を見せることもなく、高齢者向け施設に入るなど、事実上の「引退」状態だった。

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田中さんは10年公開の映画「最後の忠臣蔵」に出演したが、俳優としての仕事はこれが最後になった。12年8月、俳優座養成所の後輩で、「北の国から」など数多くの作品で共演した地井武男さんの「お別れの会」に発起人として出席。「北の国から」で息子役の吉岡秀隆に体を支えられながら、「おいら、まだ信じられない」「会いたいよ」と祭壇の遺影に向かって悲痛な思いを訴えたのを最後に、公の場に姿を見せることもなくなった。14年に心酔していた高倉健さんが亡くなった時も、コメントを出すことはなかった。

13年には週刊誌に「隠居生活 俳優引退」と報じられ、田中さんの妻が週刊誌の取材に「体力的に厳しいと思います」としながらも、「引退も何も、田中邦衛の人生そのものが役者ですから」と答えていた。その後、足腰も弱ったこともあって高齢者向け施設に入居してリハビリ生活を送っていたが、17年には施設から自宅に戻ったという。

田中さんは岐阜県出身で、中学の代用教員を経て、55年に俳優座養成所に入った。3度目の受験での合格で、同期には井川比佐志さん、露口茂さん、藤岡重慶さん、山本学、水野久美がいた。57年に映画「純愛物語」でデビューし、アクの強い風貌から、映画ではチンピラや殺し屋役を演じたが、61年に加山雄三主演の映画「大学の若大将」で若大将のライバル青大将役で出演。コミカルで憎めない役柄が人気を呼び、「若大将」シリーズのレギュラーにもなった。66年にはフジテレビ系ドラマ「若者たち」で兄弟のまとめ役の長男を好演し、同年スタートの映画「網走番外地」シリーズでは高倉健さん演じる主人公を慕う舎弟をコミカルに演じた。以降、公私ともに高倉さんを慕うようになった。

81年からは、倉本聰さん脚本のフジテレビ系ドラマ「北の国から」に主演。北海道・富良野に移り住み、2人の子供を育てる黒板五郎を演じて、厳しいだけでなく温かさも持つ父親像が多くの人々に愛された。02年までスペシャルドラマとしてシリーズ化され、田中さんの代名詞ともなった。きまじめでシャイな性格でも知られ、「北の国から」の五郎の独特の語り口調や表情は、ものまねネタの定番ともなり、親しまれた。

◆田中邦衛(たなか・くにえ)1932年(昭7)11月23日、岐阜県土岐市生まれ。55年に俳優座養成所に入所し、73年に俳優座を退団。映画「若大将」シリーズの青大将役、ドラマ「若者たち」の長男役、「網走番外地」の舎弟役、ドラマ「北の国から」の黒板五郎役など、数多くの持ち役で人気を得た。99年に紫綬褒章、06年に旭日小綬章を受章。長女淳子さんはNHK職員で、同局で女性初の海外特派員、ワシントン支局長などを歴任し、現在は同局広報局長。

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