受賞作と受賞作品を発表した、日刊スポーツ公式YouTubeチャンネルで昨年12月27日に配信した特別番組および、同28日付紙面とニッカンスポーツ・コムで紹介しきれなかった受賞者の方々のコメントも入れた、インタビューのロングバージョンをあらためて掲載します。
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主演女優賞は、歴代3位の高齢受賞となった倍賞千恵子(81)に決まった。9年ぶりの主演作「PLAN 75」は75歳以上の高齢者が自ら生死を選択できる制度ができた「近未来の日本」が舞台。高齢化社会の深刻さに焦点を当てた作品だ。自らの死生観に改めて向き合い、「命」を象徴する劇中の息づかいにもこだわった。受賞の一報には「何かの間違いかなと思いました。精進いたします」と照れ笑いした。
深刻な内容に最初は抵抗があったという。
「台本を読んだときは、正直きついなあ、と。途中で、読むのをやめようかなあとも思いましたが、何とか思い直して読み切った後、まずは監督さんにお会いしてから(出演を決めよう)と考えたんですね」
これが長編デビューの早川千絵監督(46)は35歳下だ。
「コロナのマスク(着用)が厳しいときで、最初の顔合わせから全員マスクだったんですね。で、その後の打ち合わせも衣装合わせもずっとマスクのまま。結局監督の顔を見ないまま、心もはっきり決まらないまま、クランクインの日を迎えちゃったんです。その日初めてお顔を見て、あら、おひなさまみたいな人と思って(笑い)。で、じっくりとお話をうかがうと、生死にまつわることを実にいろんな角度からお考えだったんですね。本当のことを言えば、この役をやってみようと心が決まったのは、クランクインの日だったんです」
30代半ばから映画学校に通い始めた遅咲きの早川監督の演出は一見おっとりしているが、撮影中は何度もそれに救われたという。
「時々(演技に)迷うことがあったんですけど、それを見抜いたように(監督が)すすすっとそばに来て『あのね、あのね、きっとミチ(役名)の気持ちはこうだと思うんですよ』ってすごく優しくミチ(のキャラクター)を吹き込んでくれるんです。それがすごくありがたかったですね」
「男はつらいよ」の巨匠、山田洋次監督作品の常連として、長年研さんを積んできたキャリアについてはいまさら言うまでもないだろう。まるで子どものような年齢の新人監督の指導を素直に受け入れるところに、改めてこの人の懐の深さを感じる。
「山田さんは怒るときは怒るし、にぎやかな現場ですね。対照的に早川監督は時々どこにいるか分からない(笑い)。『監督どこにいるの?』と聞くと、遠くの方で『ここですう』って。モニターを通して(演技を)ご覧になっているんですね」
早川監督のこだわりを実感することも少なくなかった。
「ラストでミチが歌うところは私も好きなシーンなんですけど、監督は『息』を主に歌ってください、と。それが難しかったですね。自宅のポストをのぞいて、何にもないことを確認するようなさりげないシーンでも、監督は『息』『息』とおっしゃる。きっとそれがミチの生きている証しということなんでしょうね」
今回、新人賞を受賞した共演の河合優美(22)は倍賞がデビューした頃の年齢だ。
「電話で話すシーンの時に、彼女は(映らないので)私服で来てたんだけど、監督がそばで『あのね、あのね…』と指導していくと、どんどん変わっていくんです。すごいなあ、この方はと思いました。ミチが見ている前で彼女が待っているシーンでも、その立ち姿がしっかり様になっているんですよ。ただ立っているだけではなく、ミチがそこにいることが分かっている感じを背中に出している。素晴らしいと思いました」
自身の年齢もあり、今回のテーマは考えさせられるところが少なくなかった。
「撮影に入る前の話なんですけど、よく行くおそば屋さんで、友だちと生きるの死ぬのっていう話をしていた時に、たまたまそこによくいらっしゃる住職の方がみえたので、その方はとってもきさくな人だってこともあって、『死ってなんですか?』ってストレートにお聞きしたんですよ。ちょっと間があって『生きることですよ。そこまでにどう生きるかってことですよ』とおっしゃったんです。結局、今をどう生きるかなんだなあ、と。年齢にかかわらず、一日一日を大事に精いっぱい生きて、もし仕事が入ったら、心と体がそれに対応できるような自分でありたい、と。今はそう思っています」
体調維持の秘訣(ひけつ)は?
「発声とストレッチは続けています。歩けるときは歩く、あと泳いでいます。そして、食事は朝、昼、晩しっかりとることかな。私の場合は今のところ、それでもっていますね」。【相原斎】
◆倍賞千恵子(ばいしょう・ちえこ) 1941年(昭16)6月29日東京生まれ。54年「ひばりの赤ちゃん」で歌手デビュー。60年松竹歌劇団入り。歌と踊りの逸材と注目されるが、松竹映画にスカウトされ、61年「斑女」で映画デビュー。63年、山田洋次監督「下町の太陽」に主演。この主題歌でレコード大賞新人賞。NHK「紅白歌合戦」にも4年連続出場した。69年以来、映画「男はつらいよ」全50作で妹さくら役を務める。
◆PLAN 75 78歳の角谷ミチ(倍賞)は高齢を理由に仕事を解雇され、満75歳から生死の選択権を与える「プラン75」申請を検討する。市役所の申請窓口で働く岡部ヒロム(磯村勇斗)とコールセンターの成宮瑶子(河合優実)はシステムに強い疑問を抱く。



