NHKは戦後80年を迎える2025年前期の第112作目の連続テレビ小説を、アンパンマンを生み出した、やなせたかしさん(1919-2013)と小松暢(のぶ)さん(1918-1993)の夫婦をモデルにした「あんぱん」とすることを20日、発表した。
原作はなく、ヒロインのぶ役は今後オーディションで決定する。脚本は14年の連続テレビ小説「花子とアン」、18年大河ドラマ「西郷どん!」や、テレビ朝日系「Doctor-X 外科医・大門未知子」などを手がけた中園ミホ氏が担当。同局は「激動の時代を生きた波瀾(はらん)万丈の物語として大胆に再構成します。登場人物名や団体名などは一部改称して、フィクションとして描きます」としている。
同局はストーリーについて「あらゆる職業を転々としながら定まらない人生を送っていた、遅咲きの漫画家・やなせたかしが70歳にして生きる喜びを書いたアンパンマンのマーチの歌詞を生み出した背景には、戦前・戦中・戦後と激動の時代を、ちょっと気が弱くて自信のないたかしと共に生き、けん引し続けた『ハチキンおのぶ』の存在があった」と説明。「生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった二人の人生。何者でもなかった二人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現したアンパンマンにたどり着くまでを描き、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語をお届けします」としている。
作者の中園ミホ氏もコメントを寄せた。「『ハチキンおのぶ』『韋駄天おのぶ』こと、小松暢さんをモデルにした朝田のぶがこのドラマのヒロインです。ハチキンとは、土佐弁で男勝りの女性のこと。県大会で優勝するほど脚が速く、行動力とスピード感にあふれ、人生の荒波をパワフルに乗り越えていくヒロインです」と説明。「彼女は、あの『アンパンマン』に登場する『ドキンちゃん』のモデルと言われています。いつも好奇心に目を輝かせ、「お腹がすいた~!」というのが口癖のチャーミングな妖精です」とヒロインのモデルについてコメントした。
さらに「そして、暢さんが生涯のパートナーとして選んだ男性は、漫画家で詩人の柳瀬嵩(やなせたかし)さん。彼ははっきり言って遅咲きの人です。日本中の子どもたちの間でアンパンマンが大人気となり、漫画家として世間に認められたのは、なんと79歳になってからでした。幼い時に父を病気で亡くしたやなせさんは、高知県の後免町にある伯父の家に引き取られ、やがて戦争が始まり、出兵します」と、やなせさんの歩みも説明した。
そんな夫妻について「終戦後の混乱期、二人は高知新聞社の編集部で記者として働いていましたが、暢さんは『私、先に東京へ行ってるから』と言い残し、さっさと新聞社を辞めていなくなります。彼女を追いかけるようにやなせさんも上京し、漫画家となるきっかけをつかむのです。こうして、暢さんは持ち前の行動力と飽くなき好奇心で、様々な職場を渡り歩き、手塚治虫、赤塚不二夫、いずみたく、向田邦子、青島幸男……等々、才能豊かで個性的な人たちと出逢い、関わり合いながら、ちょっと気が弱くて自信のないやなせさんを励まし続けます。やなせさんの才能がいつか必ず開花することを信じていたパートナーの存在がなかったら、アンパンマンがこの世に誕生することもなかったかもしれません」と背景を解説した。
国民的人気アニメとなったアンパンマンについて「『正義は逆転することがある。信じがたいことだが。じゃあ、逆転しない正義とは何か?飢えて死にそうな人がいれば、一切れのパンをあげることだ』。これはアンパンマンの神髄であり、二人が逆境や失敗をいくつも乗り越えて、つかんだ人生のテーマです。二人が最も輝いていたはずの青春期、戦争が始まりました。やなせさんはたった一人の弟(千尋さん)を戦争で亡くしました。戦場にも日本中にも飢えて死にそうな人があふれていました。だからこそ、晩年になってアンパンマンを書かずにいられなかったのだと思います。お腹をすかせて弱っている人に自分の頭をかじらせて元気にするヒーローです。初めは『自分の頭を食べさせるなんてグロテスク』とか『太っていてカッコわるい』と、まるで人気がなかったアンパンマンですが、たった一人、暢さんだけは応援し続けたのです」と語った。
中園氏は「最後に、とても個人的な打ち明け話をします」と前置きし「アンパンマンが誕生するずっと前、小学生の私は、やなせさんと文通をしていました。『愛する歌』という詩集に感動して手紙を送ったところ、すぐにお返事をくださったのです。何度かお目にかかったこともあります。やなせさんはいつもやさしい笑顔を浮かべ、『元気ですか?お腹はすいていませんか?』と声をかけてくれました」と回想。「戦後80年、放送開始から100年目にあたる2025年、連続テレビ小説で、のぶと嵩のお話を書かせていただけることに、今、私は幼い頃のように胸を高鳴らせています。ドキンドキンと--」と、決意を語っている。