胸を打った三原舞依 続きが見たい宮原知子 らしい幕引き田中刑事/記者座談会その3

北京オリンピック(五輪)が行われた2021-22年のフィギュアスケート界。競技会の大小にかかわらず、多くの選手が輝きを放ちました。現場で取材を重ねてきた担当記者の木下淳(41)阿部健吾(40)松本航(31)による座談会の後編では、種目を問わず総合的に情報を発信する特集ページ「Figure365」に携わり、感じた思いを語り合いました。

フィギュア

木下淳・阿部健吾・松本航

<フィギュアスケート2021-22年シーズンを振り返る:その3>

新田谷凜、石塚玲雄、長谷川一輝、和田龍京…

木下「日刊スポーツ新聞社が20年7月1日に『Figure365』をスタートさせて2季目。多くの選手情報をまんべんなく伝えることを目的に立ち上げ、可能な限り実行してきた中で、当然こちらの思い入れも強くなったね」

松本「毎年思いますが、いつか全日本選手権を記事執筆なしで取材してみたいですね(笑い)。演技を見て、取材をして、記事を書いて、記録をまとめて、新聞の表を作って…となると『あれを聞きたかった』というのが必ず出てきますから」

21年全日本選手権、SPの演技をする新田谷凜

21年全日本選手権、SPの演技をする新田谷凜

栃木冬季国体、石塚玲雄のフリー演技=22年1月26日

栃木冬季国体、石塚玲雄のフリー演技=22年1月26日

21年全日本選手権、SPで演技をする長谷川一輝

21年全日本選手権、SPで演技をする長谷川一輝

木下「コメントがキレキレすぎて、いつも浅はかな予定稿を全て吹き飛ばしてくださる羽生結弦選手はもちろん、宇野昌磨選手に鍵山優真選手に、演技を見て取材に走って、もう終盤はスピン並みに目が回る(経験ないので分かりませんが)。中盤にかけても、ラスト全日本だった新田谷凜選手や早大の石塚玲雄選手、東京理大で先進工学を学ぶ長谷川一輝選手に、日野龍樹さんが期待している和田龍京選手ら、数多く選手がいても、なかなかじっくり聞き切れない。コロナ禍の中、ミックスゾーン(取材エリア)に入れるのも各社1人なので、入場パスの受け渡しもしないといけないし。松本の『こっちこっち、早よせいや!』と私を走らせる声の大きさがレベル4なので、そのたびに想定質問が頭から飛びますし」

松本「社内では阿部さんが選手のコメントをなるべく多く、と熱く激しくツイートしてくださいましたね」

21年全日本選手権、フリーの演技をする山本草太

21年全日本選手権、フリーの演技をする山本草太

阿部「画面越しでしたが、山本草太選手の演技はぐっとくるものがあったなぁ。初めて会ったのは14年のジュニアGPファイナル(スペイン)で、そこから度重なるケガ。昨季の辛い表情が気になってたので、『人生を込めた』SP曲『イエスタデイ』の素晴らしい滑りがうれしかった。スポットで取材した19年のNHK杯では練習日にトイレで再会して、互いに驚いたことも」

21年全日本選手権、SPの演技をする三原舞依

21年全日本選手権、SPの演技をする三原舞依

松本「苦労しながら20代でも輝く選手たちの演技は胸を打つものがありますよね。三原舞依選手にもそれを感じました。言葉で表現できない思いを味わっても、それを上回る姿で戻ってくる。4季前も苦しんでいたSP『リベルタンゴ』を4大陸選手権で完成度高く演じ、今季も全日本で悔やんだフリーのジャンプを全てそろえて4大陸優勝。以前、インタビューした際に『リベルタンゴをやり抜いた経験は生きていると思います』と言っていました。そうやって立ち上がる姿に、見ている人は自分の人生を重ね合わせますよね」

21年全日本選手権、フリーの演技をする宮原知子

21年全日本選手権、フリーの演技をする宮原知子

松本「宮原知子選手は最後まで周囲から『まだ続けるのもいいんじゃない?』と声をかけられていたそうです。それぐらい唯一無二のスケートが評価されていたのだと思います。昨年9月のインタビューでコストナーさん、ランビエルさんの名前を出しながら『小さい時はスピンが上手な選手のスピン、ジャンプが上手な選手のジャンプを見ていたんですけれど、今はいろいろ経験してきて、誰にもできない、自分にしかできないスケートを見せたい、と思うようになりました』と明かしてくれました。プロスケーターとして、物語の続きを見たくなります」

4月29日、引退会見で思い出を語る田中刑事

4月29日、引退会見で思い出を語る田中刑事

松本「田中刑事選手の引退会見では伝えたいことが話せなくならないように、手元の紙を見て、思いを発していました。そこにはスケートリンクの管理者の方に至るまで、携わってもらった人への感謝の言葉があり『田中選手らしいな』と思いました。昔、スケートの結果が出ない時の気分転換の話をした時に『ドカ食いしたり、寝て、ストレス発散とはならないんです。悪い時にいつもと違うことをすると、もっと悪くなるんじゃないか? と思う。自分がどう成り立っているのかが分からない』と苦笑いしていました。そうやって日々、悩みに向き合いながら続けてきた現役生活に、頭が下がる思いです」

栃木冬季国体、成年男子フリーの山隈太一朗=22年1月26日

栃木冬季国体、成年男子フリーの山隈太一朗=22年1月26日

木下「松本、松本、松本…発言3連発! 頭が下がる思いです。来季に向けては、早くも山隈太一朗選手がラストシーズンを明言していた。フィギュア界屈指のサッカー通、リバプールファンとしてゴッド対応してきてくれただけに寂しいけれど、リバプールが欧州チャンピオンズリーグで2季連続の決勝進出を果たした今年も、突撃取材せざるを得ない(笑い)。もちろん演技のことも!」

北京五輪、リズムダンスで演技する小松原美里(左)、小松原尊(ティム・コレト)組

北京五輪、リズムダンスで演技する小松原美里(左)、小松原尊(ティム・コレト)組

カップル競技も大きな話題に

阿部「カップル競技の魅力も、さらに実感した1年でしたよね。アイスダンスの『チームココ』小松原美里、尊組は国籍の壁などを乗り越えてつかんだ五輪の舞台。尊選手が『初めて美里の手を握った時に心地よさを感じた』と教えてくれた確信が実ったなと」

21年全日本選手権、フリーダンスに臨む村元哉中(左)と高橋大輔組

21年全日本選手権、フリーダンスに臨む村元哉中(左)と高橋大輔組

松本「『かなだい』は世界選手権の一夜明けで聞いた話が印象的でした。5分間練習の時に村元哉中選手が『あっ、大ちゃん、ダンサーになった』と思ったそうで…。高橋大輔選手が他の組と接触しそうになる時に、村元選手の手を引いてコース取りをしたみたいです。高橋選手いわく『普段の練習も危ない時は声を出すんですけれど、去年はその声すら出なかった。それだけ少しは余裕が出てきた』と言っていました。村元選手が『そういった細かいところを見ながら感動していました』と明かしていて、一緒に滑る2人だけが知る部分でも高橋選手の順応ぶりが伝わってきました」

北京五輪ペアフリー、演技を終えて感極まる三浦璃来(左)、木原龍一組=22年2月19日

北京五輪ペアフリー、演技を終えて感極まる三浦璃来(左)、木原龍一組=22年2月19日

木下「ペアの『りくりゅう』は躍進の象徴だった。三浦璃来選手、木原龍一選手はシーズンを通して、GPシリーズの表彰台であったり、世界選手権の銀メダル獲得であったり、歴史を次々と塗り替えてきた。北京五輪の団体戦で日本初の銅メダルを獲得できたのも、まさに2人のMVP級の活躍があったから。あ、スケート界ではMVSか。Yahoo!ニュースにも『りくりゅう』の見出しが立つほど知名度が上がった2人の心温まるエピソードと言えば…松本、何か教えて(笑い)それを俺が言ったことにして書いておいて!」

松本「分かりました!」

木下「なになに、あっ、りくりゅうのスピンの話があったね。団体戦のSPで記者席からもずれたのが分かったのに、それでも要素の途中で修正していった。木原選手が『基本的にずれても、どっちかがアジャスト(調整)しようとかじゃなく、合うようになっています』と振り返った時には『合うようになっています』という言葉の裏側の努力を想像して、取材エリアの報道陣が『すごい…』とうなったんだよな」

北京五輪ペアフリー、演技を終えて感極まる三浦璃来(左)、木原龍一組=22年2月19日

北京五輪ペアフリー、演技を終えて感極まる三浦璃来(左)、木原龍一組=22年2月19日

松本「木下さん、その時、ホテルで隔離されていませんでした?」

木下「あっ…。北京への入国便の真後ろの席にいた外国人が陽性で『濃厚接触』と通告され、ホテル自室で7日間、隔離されていたんだった。でも勘違いされるといけないのは、私、出国前から帰国後まで30回連続陰性をそろえました!」

木下「真面目な話、最前列で見た地元中国のスイハンの演技は本当に感動的だったね。ボランティアがみんな胸の前に両手を組んで、祈っていて…。コロナ禍で『満員の大歓声!』とはいかなかったけれど、その期待に見事に応える演技は『北京五輪』を感じた瞬間だったな」

21年全日本選手権、ペアの演技をする柚木心結(右)と市橋翔哉組

21年全日本選手権、ペアの演技をする柚木心結(右)と市橋翔哉組

松本「『りくりゅう』の活躍はもちろんですが、その存在を追う『みゆしょー』誕生もうれしかったです。北海道からペアをしたくて京都に引っ越した柚木心結選手と、三浦璃来選手の元パートナーで国際大会の経験もある市橋翔哉選手のペア。市橋選手はパートナーを探しながら1人で滑り続けた時間を経て、今季の西日本選手権で『みゆしょー』としての初演技を終えました。『今日のフリーは本当に、スケート人生の中で一番楽しかった』と笑ったシーンが心に残っています」

21年NHK杯、エキシビションで演技するマディソン・チョック、エバン・ベーツ組

21年NHK杯、エキシビションで演技するマディソン・チョック、エバン・ベーツ組

阿部「世界に目を向けると、北京でメダルは逃したけれど、チョック、ベーツ組のプログラムが印象深かったです。FDはテクノ曲に乗せて宇宙飛行士とエイリアンの恋を描いてて、NHK杯でチョック選手が『この競技自体を新しい方向に進めたい。もっとクリエーティブにと』と挑戦を教えてくれた。カップル競技には伝統にとらわれない新たな表現の模索が特に多かったと思う」

木下「世界トップクラスの選手たちに目を向け、話題を提供することも『Figure365』の使命だからな」

阿部「さすが先輩、まずは選手の氏名から覚えてくださいね」

木下「厳しめ~」

松本「……。最初に阿部さんがおっしゃっていましたが、やはりカップル競技の魅力を再確認し、新たな知識が増えた1年でした。木下さんも41歳だからって、担当歴が浅いからって、勝手に限界を決めず、これから勉強してくださいね。続投させてあげたんですから(笑い)。それは僕が決めることじゃないので、冗談ですが。ファンの皆さん、これからも彼には厳しいご指導を、よろしくお願いいたします(笑い)。そして3季目に入る『Figure365』に対しては、新たに取り組んでほしいことも含め、貴重なご意見を、ぜひアンケートに書いていただけますと幸いです」

 

 

【ニッカンコムのフィギュア特集ページ「Figure365」はこちら】

座談会参加記者の紹介

◆木下淳 04年入社。大学時代、村主章枝さんと同じ授業を受けた際にフィギュアを知る。文化社会部、東北総局、整理部をへてスポーツ部。サッカーでリオ五輪とW杯ロシア大会、一般班で夏は東京五輪組織委と柔道、冬は北京五輪を取材。

◆阿部健吾 08年入社以来、スポーツ部一筋。フィギュアは12年からで、20年から再び。北京大会でオリンピックは4大会目で、担当競技を持たずに横断的に取材、かつホテルで簡易調理器具で“料理担当”。4月からは企画担当など。

◆松本航 13年10月入社。19年ラグビーW杯日本大会、五輪は18年平昌、21年東京、22年北京を現地取材。体育大出身だが氷の上では膝がガクガク。好きな要素はスパイラル、ジャンプは「セカンドループ」。185センチ、100キロ。