国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が16日午後、広島市の平和記念公園を訪れた。賛否の声がある中、バッハ氏は同公園内にある慰霊碑で献花し、黙とうした。

小雨が降る午後1時半ごろ、バッハ氏が献花する際、慰霊碑から約50メートル離れた立ち入り規制の柵の外からは市民団体「8・6ヒロシマ大行動実行委員会」のメンバーが拡声器を使い「Get out(出ていけ) Bach(バッハ)!」「You're not welcome(あなたは歓迎されていない)」と抗議する声を上げた。バッハ氏は真正面から罵声を浴びる形になった。

広島県民約50人による「東京五輪の中止を求める広島連絡会」(代表=足立修一弁護士)は午後1時から平和記念公園周辺で抗議活動をスタート。「バッハは広島を利用するな!」「五輪強行、反対」「命をないがしろにするバッハは帰れ」と全員で声を合わせて抗議した。

同連絡会は12日に「新型コロナウイルス下での五輪開催強行を正当化するためにバッハ会長が『核のない平和な世界』のイメージを利用することは、被爆者に対する冒涜(ぼうとく)」とする申し入れ書を広島県と広島市に申し入れた。

この日の抗議活動後、同連絡会の久野成章事務局長は「被爆者運動をやっている方からは平和記念公園の中に入って、座り込みをしたいという声もあった」と明かした。

広島市では、平和記念公園内の一部で午後0時30分から午後3時30分まで立ち入りが規制され、資料館や国立広島原爆死没者追悼平和祈念館も同時間帯は一時閉館した。厳戒態勢が敷かれた。

抗議活動に参加した広島県原爆被害者団体協議会の佐久間邦彦理事長は「五輪開催を強行するために広島を利用している。コロナで多くの人がなくなっている今は、広島を訪れるべきではなかった。この時期でないなら歓迎したかった」と複雑な心境を明かした。

散歩中に抗議活動を見守った広島市の女性(81)は「なんでもかんでも反対しいさんな」と話し、バッハ氏が原爆資料館を見学したことに「バッハさんには、しっかりと資料館をみてもらい、平和を世界に伝えてほしい」と願った。

東京五輪のテニスの観戦チケットを持っていたという広島市の主婦(51)は「楽しみにしていたので観戦できないのは残念。いまは無事に大会ができることを祈るのみです」と話した。