春風に桜の花びらが舞う。4月1日、関東大学サッカーもシーズン到来を迎えた。カレッジ・フットボーラーたちの元日を祝福するかのように、温かな陽光がいっぱい降り注いでいた。
学生たちの「聖地」東京・西が丘へ、2023年の初詣。連覇を狙う明治大と、2部から昇格した東海大の開幕カードを見た。
■欧州遠征で2得点挙げ存在感
明大には、来年のパリ・オリンピック(五輪)を目指すU-22(22歳以下)日本代表にも選出されるFW佐藤恵允(けいん、4年=東京・実践学園)がいる。
「ケイン」という名前。イングランド代表の世界的なFW、ハリー・ケインはボックスストライカーだが、こちらのケインは豊富な運動量で中盤、サイドとプレーエリアは幅広い。コロンビア人の父を持ち、スピード、フィジカルは一級品。178センチ、75キロのがっちりした体が緑のピッチで躍動する。
今季の開幕を直前に控えた3月末には代表チームの欧州遠征(ドイツ、スペイン)に参加。持ち前の決定力を発揮し、同年代のドイツ代表とベルギー代表からそれぞれゴールを挙げた。欧州プロやJリーガーが幅を利かせる中、大学生が存在感を示した。その欧州帰りの強行軍だけにベンチ入りも微妙かと思いきや、当然のように先発メンバーに名を連ねてきた。
明大の10番。エースの看板を背負うだけに、最初の公式戦を休むという選択肢は毛頭なかったようだ。試合が始まると相手の脅威となった。
前半26分、自陣からのカウンターで一気に敵陣深くまで約50メートル、ボールを運んだ。続けて、左サイドへサポートに走ってショートパスを付けてもらうと、ファーストタッチで左前方のスペースへと持ち出し、瞬時にして加速。そこからエリア内へと突き進み、激しくDF2人と交錯。勢い余って体ごとゴールラインを飛び越えていった。
ケインがボールを持てば、相手複数の選手が間髪入れず体を当てて挟みにかかる。勤勉かつ執拗(しつよう)な門番たちに手を焼いた。
それでも絶好のチャンスは巡ってきた。1-1で迎えた後半30分、ペナルティーエリア外へのこぼれ球に鋭いスプリントから右足を勢いよく振り抜いた。だが力が入った分、ボールが浮いた。そこは相手の伸びてくる足も見えたのだろう。ゴールを越えてスタンドへと勢いよく飛び込んだ。
結局、試合は1-1の引き分けに終わった。ケインはフル出場したものの期待された得点はなかった。コンディションは万全ではなかったようだ。
■ドイツ相手にも「案外通用する」
試合後、「(今季)初の公式戦とあって絶対に勝利という強い気持ちで臨んだ。勝てなかったけど、次につながる引き分けだった」と前向きに振り返った。
U-22代表の活動に話を向けると、得点という結果もあって手応えを口にした。
「(U-22ドイツ代表とは)最初に整列した時に、自分より大きい選手しかいなくて正直、圧倒されたんですけど。いざ試合になると自分もフィジカルが強みなので負けたくないなと思っていたら、案外通用するなと感じました。そこは自信にもつながったし、そこをもっと伸ばせば、海外でも武器になるなと思いました」
欧州から帰国し、チーム練習への合流は1日だけ。その中で、この日の開幕戦に臨んでいた。
「そういう日程の中でも結果を出せるのが強い選手だと思う。海外にいけば、中1日とか、中2日とかもあるし、移動もあって当たり前。そこで自分の100%の実力を出せるようにならないとダメです」
強い向上心。そんな心意気を育んでいるのが大学サッカーなのだろう。球際、切り替え、運動量の「三原則」を掲げている明大。それらがプレーの根幹となっている。
栗田大輔監督は「徹底的に基本に忠実に、そこの部分に厳しさが出てくると良くなる」と説く。その上で「個人、個人の能力を集結させて、その瞬間に解き放つ」。個と組織の闊達(かったつ)な融合。チームが一つの強固な壁となって押し寄せていく、相手を圧倒するスタイルを標榜する。
大学サッカーからもう1つ上のステージを目指す-。そんな野心的なチームにあって、ケインは明治の看板を背負って立つ存在だろう。
栗田監督は「次元が違うというか(代表活動で)目線が上がっている。練習から言っていることも厳しいし、だからと言って奢りもなく、変な勘違いもない。本当に次のステージを見据えて、世界を見て頑張ってくれている」と称賛した。
■三笘の「異色」なキャリア注目
ケインにフォーカスした試合ではあったが、少し視点を移せば、見どころは尽きないものだった。
明大はどのポジションにも明確な個性を持つ選手がそろっていた。柔もあれば剛もある。異なる特性が1つになり、チームとして力を発揮していた。対する東海大は飛び抜けた個はいないものの、粘りを基盤とした強固な組織力があった。
イングランド・プレミアリーグで大活躍するブライトン三笘薫(筑波大卒)の存在もあり、大学サッカーへの注目度は高まっている。あるイギリス・メディアは、三笘の経歴を「異色」なものと着目した。
「体育の学位を取得するためにサッカー選手としてのキャリアを遅らせるという“勇敢な決断”をした」「サイドバックを苦しめ、その方法について詳細なエッセーを書くことができる選手はほとんどいない。しかし、ブライトンの三笘薫は可能だ」などと、大まじめに紹介している。
学校型でなく地域型スポーツが主流の欧州からすれば、日本の部活動文化は異質なものだろう。
厳しい競争と新陳代謝もあってプロサッカー選手の寿命は概して長くない。10代でプロになるのが常識の欧州からすれば、大学で過ごす4年間は「遅れ」にほかならない。
ただ、日本の強豪大学サッカー部はプロクラブにも負けない施設と指導体制を有し、医療に栄養学、データサイエンスというサポート体制が充実。そこはJリーグ全57クラブの中でも、中位レベルにあるのではなかろうか。さらには学府ゆえの人格・社会教育という側面まで付いている。
だからイギリスメディアが言う「勇敢な決断」でもなければ、「遠回り」でもない。むしろ実戦経験を多く積め、1つ先へとステージを進められる「バイパス」のようなものだ。
■大学サッカー経由のW杯戦士9人
実際に大卒選手の多くは、Jリーグの即戦力として活躍する。さらに言えばワールドカップ(W杯)カタール大会を戦った日本代表でも大学サッカー経由の選手は、GKシュミット。ダニエル(中大)DF長友佑都(明大)谷口彰悟(筑波大)山根視来(桐蔭横浜大)MF伊東純也(神奈川大)守田英正(流通経大)三笘薫(筑波大)相馬勇紀(早大)上田綺世(法大)と9人もいた。
もちろん他国を見れば、「学士」を取得しているW杯戦士はあまりいないだろう。それはありきたりな「文武両道」という類いのものではなく、近代日本のスポーツ文化が明治の学校教育に端を発し、独自の発展を遂げていることが大きい。
Jリーグ創設後、日本にも地域型スポーツが広がったが、もともとサッカー場などの施設を有する大学がスポンサーを付けて「クラブ化」することで、プロとあまり遜色のない「U-22クラブ」が出来上がっている。三笘を世界最高峰の舞台に送り出したように、大学サッカーには大きなポテンシャルがある。
4月1日に始まった今季のリーグ戦は、11月19日まで行われる。さらに公式戦は全日本選手権がある12月まで続いていく。
「ネクスト三笘」へ-。
ケインだけでなく、また新たな才能がこの舞台から現れるだろう。そんな選手を見つけるのが楽しみでならない。実際に三笘もこの西が丘で躍動し、世界へと羽ばたいた。
どこか気分を新たなものにしてくれる4・1。桜の花びら舞う西が丘で、新年度の始まりを実感した。
【佐藤隆志】









