生成AIの登場により、デジタル化社会は加速度的に広がっている。
同時にスポーツ界を取り巻く環境も変化する中、デジタルの力を使い課題解決はもとより、地域との連携をより強めようとする動きが進んでいる。
「サッカークラブは地域のシンボルであり、ハブになる」。そう熱く語るのは原山青士さん(35)。
若くして社会課題の解決を志し、早稲田大学創造理工学部で学んだ。デジタルを活用し、医療や教育関係のイノベーション事業でキャリアを積み上げた。2021年に「H&Eテクノロジー」社を立ち上げると、スポーツ領域にも幅を拡げている。
サッカークラブが未来に向けてできることとは何か? 新たな時代を切り拓こうとする原山さんに話を聞いた。
■ファンそれぞれへのメッセージも
ヘルスケア(健康管理)とエデュケーション(教育)を命題とする「H&E」。そこに経営施策やデジタルテクノロジーを絡め、課題解決に取り組んでいる。
--教育現場と比べ、スポーツの世界にも生成AIは浸透していますか?
「教育現場では、業務効率化での活用も始まりつつあるほか、学び方も大きく変わりつつあります。AIが搭載された学習アプリは広く提供され始め、東京都ではすべての都立学校で16万人に対して生成AIを使える環境が整備されました。これは生成AIの登場により、社会で必要とされる人材が大きく変わってきているためです。スポーツの世界では、チーム事情によるかと思いますが、IT担当者をチーム内に抱えていないケースもあり、正直あんまり浸透していないと思います」
--スポーツにおいて生成AIを活用するってなると、どういう具体的な策があるんでしょうか? ファンエンゲージメント(チームとファンとの深いつながり)に有効だと聞きますが
「教育では業務効率化で、例えば保護者への案内文など、さまざまなシーンで活用が始まっています。顧客データがきちんとたまっていけば、その1人1人に合わせたメッセージっていうのをAIで自動生成して、それを画像も含めてファンとコミュニケーションを取っていくことが簡単にできるようになると思います。また映像がリンクできれば、この試合がどうだったか、終わった瞬間にAIによる解説記事を書くこともできます。あとは経営、ファンマーケティング、ファンエンゲージメント、コミュニケーションといったところもAIを活用することで向上させることできると思います。一方で、教育においては人の心に火をつけることは生成AIにできないように、スポーツにおいてはスタジアムの熱量、興奮、感動は生成AIにはとても再現できません」
--少年少女への教育的な観点も含め、サッカークラブには大きな可能性とかポテンシャルがあると考えています。どういう変化が期待できると考えますか?
「これからの時代、AIの登場により大抵のことはデジタルで実現できるようになります。しかし、何かをやりたいという思い、夢を持つことや、人と人のコミュニケーション、思いやりや共感などはAIでは実現できません。こういった点数で測れない力を育むことに、プロを目指すか否かを問わず、サッカークラブが運営するスクールには大きな意義があります。AIが普及するほど、逆説的ですが、サッカークラブの持っている価値は相対的に高まるのです。少しもったいなく感じるのは、例えば地域のシンボルとなるクラブとして、その子たちがその先どうなったかっていうことは多分を十分に追えていないことです。子どもが成長する横で多様な教育サービスをクラブとして提供し、子どもの人生、地域にとってなくてはならない存在になっていき、そこでのコミュニティーを作ってファンとし、さらに地域の活性化につなげていく動きをもっとやれてもいいのかなと思います。AI活用という意味では、地域の子どもたちは何が好きで嫌いなのか、どんなことをやってきたのかというデータを取得していき、人生の相棒となるパーソナルAIをサッカークラブが提供する、ということもできるはずです」
■姉妹都市提携を生かして活動
原山さんは大のスポーツ好き。2002年のワールドカップ日韓大会も「ベルギー戦の鈴木隆行選手のゴールとか、強烈に覚えてます」と笑う。
だからこそ「あの場の空間でやっぱり感じること、スタジアムでやっぱり感じる熱気とか、あそこからしか得られないものって、デジタルでは絶対再現できない本当にに魅力ってある」。それゆえに思うことがある。
「IT企業だと新しくても数十億とかの価値がついたりする中、やっぱりサッカークラブの価値っていうのが過小に評価されているなっていうふうに感じます。もっとそこに価値は大きいものがあるなっていうふうに思います。では過小評価されてるのはなぜかというと、その価値っていうものをきちんと表現できていないし、その価値を十分に使いこなせてないのかなと。それはなぜなんだっていうと、もっと地域だったり日本だったり、世界にスポーツクラブが果たせることってあるんだろうなっていうことが世の中に表現できてないし、伝わってない。実際、実現できてないことも多いのかなと思っています」
--その“できていない”ことについて、何かアイデアはありますか?
「例えば、簡単にできそうなところで、姉妹都市提携先の自治体との連携でしょうか。自治体がやっている姉妹都市提携とスポーツクラブって全然リンクしていない。その姉妹都市提携先にサッカークラブがあったら、互いに試合をやる中でインバウンド、アウトバウンドと、人の行き来にはなります。そこで地域の産品を相手の国に売りに行く。要は誰々選手が紹介してますっていうだけで、地域に入っていく上では、誰も知らない日本企業が売りに行くよりはるかに宣伝効果もあったりする。いわばサッカークラブが地域商社の役割を果たすイメージです。また、サッカークラブは地域の生活を支えるインフラ化しても良いのではないでしょうか。幼少期から大人までの教育を提供する、生活を支える、産業を支える。教育では部活動の地域移行が進む中、学校の先生がなかなかやりきれないっていうところの中で、プロの指導者、スポーツクラブとして地元のそういう運動とかっていうところを支援していくっていうことは最近注目されていますね」
■クラブ価値を高める社会実装
例えばイングランド・プレミアリーグのクラブでは、実験の意味も込めてさまざまな取り組みが社会実装されている。
スタジアムの人の流れをデータ解析して社会生活に活用するものもあれば、地球温暖化対策としてCO2削減といったサステナブル活動に傾倒するクラブも多い。また家畜を飼い、野菜を生産するクラブもある。実装しながらマネタイズ(収益化)への道筋も探っている。
スペイン1部リーグのビジャレアルにおいては人口5万人という小さな街にあって、独自に作り上げた育成メソッドを「知的財産(IP=Intellectual Property)」として世界中に販売する。クラブの価値を収益化し、それで得た資金はいろんな活動にも流用できる。次世代の子供たち、地域に活用できるためのもの。つまりお金を生み出すことは、次への有効な一手となってくる。
さまざまな視点を持てば、クラブには未開拓の余白部分が多い。イングランドではプレミアリーグから数えて3部クラブ所属でも5000万円規模の年俸をもらえる選手もいる。日本で言えば「J3」だが、こちらの場合は一般的なサラリーマンよりも低所得となる傾向が強い。
夢を売る商売ながら、低サラリーでは夢がない。悩ましい。お金の課題は付きまとってくるが、そこに対してクラブができるアイデアはあるものだろうか?
「つまらない話をしますが、例えば、チームが電力小売の会社になってファンに対して電気を売ります。その一部がスポンサーのチームの強化に回りますとか、地域の子供たちの育成に回りますとか。クラブのクレジットカードを持てば、一部のお金が寄付に行きますみたいな。金融、電力インフラみたいなところにファンの基盤をつくり、あとはメディアを自分で持つとかすれば、それこそ巨大なプラットフォームビジネスというのをやっていけます。首都圏クラブだったらかなりのファンというか客数になりますし、それがまた東南アジアとかにファン層を広げ、そこにも普及できるようになってくるとビジネス規模とともにクラブの価値も上がっていくと思います。単純にできそうなことで言うと、ですけど」
■2月から経営人材講座も開講
百人寄れば文殊の知恵という。原山さんはさまざまな知見を持った先人たちの協力を得て、2月からサッカークラブの未来を考え「プロスポーツチーム経営人材育成講座」を主催する。そこには元日本代表監督の岡田武史氏や川崎フロンターレ元社長で現特別顧問の武田信平氏らをはじめ、業界をけん引してきたトップランナーたちが講師として集う。
まさに温故知新とテクノロジーの掛け算だ。
「まだまだ思いつかないようなビジネスの種あると思いますし、より地域で必要な存在になれると思っています」
Jクラブがアジア中でファンがついてくるようになれば、今の価値のその10倍どころか100倍も目指せるのではと、その視座は高い。
「答えがあるというよりは、それをみんなで一緒に考えていきたいというところです」
令和維新の志士は、そう言って柔和な笑みを浮かべた。【佐藤隆志】









