そし~て~イニ~エ~スタ~ 人気シンガー・ソングライター森山直太朗が、12年4月にリリースした曲である。恥ずかしながら、今回のイニエスタのヴィッセル神戸移籍狂騒曲の最中、聴いていたラジオ番組が取り上げた曲で初めて知った。曲全体でいえば、森山直太朗のバルサ愛、その中でも「イニエスタなんだ」がガツンと伝わってくる。「超」がつくサッカーフリークとはいえ、曲まで作らせる魅力とはなんなのか。そし~て~その男がW杯後、日本に来て日本でプレーする。そんなイニエスタがもたらすもの、について考えてみた。

 5月24日から3日間、疾風のごとくイニエスタの来日イベントが行われた。最終日の26日に本拠地神戸のノエスタを訪れてのイベント。無料とはいえ、早朝から8281人が詰めかけた。目立ったのが、小さな子どもをつれた家族。子どもよりもむしろ、少年のように輝いた表情のお父さんが印象的だった。

 あのイニエスタが日本でプレーする。そんなお父さんのわくわく感が、なんだか分からなくても感覚的に子どもに伝わる。スーパースターの系譜というのは、そういうものだろう。だからこそ「もたらすもの」の期待感は高まる。日本人とそう変わらない体格で、世界のトップに上り詰めた。その「リアル」を実際に、その目で見られる効果は計り知れない。「これから」を目指すサッカー少年の刺激になる。

 神戸の三木谷会長も、ただ戦力とだけの価値判断で獲得していない。「Jリーグの発展に貢献したいと言ってくれている。彼の人脈は素晴らしい。その人脈を使ってユース、アカデミーに貢献できる人材を連れてきたと考えている。新たなユースのシステムを構築していきたい」。優れた人材は、優れた育成システムがあってこそ。ビジネスのノウハウをサッカーにも。そこに世界最高峰のイニエスタが絡む形が実現すれば、わくわく感しかない。

 「地域密着」が理念のJリーグ発足から、各クラブ育成の重要性、下部組織の充実に取り組んできた。もちろん一定の成功は収めているが、まだ歴史は浅い。今回、イニエスタがもたらすもの。将来、日本がW杯の優勝候補にあげられるような、そんな日本を率いる世界から注目される選手が飛び出してくれば、クローズアップされている年俸約32億5000万円も安いもの、かもしれない。

 ◆実藤健一(さねふじ・けんいち) 1968年(昭43)3月6日、長崎市生まれ。若貴ブームの相撲、ボクシングでは辰吉、徳山、亀田3兄弟らを担当し、星野阪神でも03年優勝を担当。その後いろいろをへて昨春からスポーツ記者復帰。いきなりC大阪が2冠と自称「もってる男」。