以前に「ガンバ大阪伝説のスカウト」として記事にした二宮博さん(59)。G大阪一筋で27年間にわたって数々の日本代表級の選手を発掘し、今年1月でクラブを退職した。2月からはリユースの国内大手「バリュエンスホールディングス」(東京、大阪オフィス)の社長室スポーツ事業担当に転身。その傍ら、大学などで講義活動も行う。

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緊急事態宣言が明けた21日、大阪・吹田市内にある大和(やまと)大学の政治経済学部で特別講義を受け持った二宮さんに、記者は同行させてもらった。1年生135人(対面、オンラインで参加)を前に、主にスカウト活動で学んだ「人生論」を説いた。

改めて興味深かったのはこの2人の対比、そして不変の真理だ。

本田圭佑と家長昭博。2人のMFは、G大阪ジュニアユースの同期で誕生日も同じ1986年(昭61)6月13日の35歳。同じ左利きで同じく日本代表になり、今も現役でサッカー界を引っ張る。

本田は二宮さんが直接、スカウトした選手ではないが、中学時代に進路相談に深くかかわった選手。家長は小学校卒業と同時にG大阪へとスカウトした。その2人の道のりはあまりにも対照的だ。本田がユースに昇格できず、石川・星稜高へ。一方の家長は、ユース時代にプロデビューするなど出世スピードは格段に違った。

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「本田選手については、私を含めてあそこまで成長するとは誰もが予想できませんでした。中学時代は圧倒的に家長選手が評価され、本田選手はサブだったのです」

このワードに、学生はより真剣なまなざしになり、二宮さんの口調も熱を帯びていく。

「なぜ、成長できたのかを考えると、本田選手は自分の居場所、自分に合う環境を見つけられたから。それが高校サッカーだったのです。星稜では型にはめられない指導方法が、彼に合った。自分を生かせる“場所”を見つけられたのです」

「ただ、家長選手も挫折がなかったわけではありません。スペイン(マジョルカ)では、高いレベルのサッカーに苦しんだ。もし中学時代に、私自身が彼に世界基準のサッカーを示してあげていれば、という反省はあります」

「2人とも挫折があり、今がある。本田選手はワールドカップ(W杯)3大会連続日本代表になり、家長選手は今や日本で最強の川崎フロンターレの主力選手です」

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その他のJリーガーの実名も次々に登場し、記者も知らない話は当然あった。講義の最後には、質疑応答の時間も設けられた。男子学生が「強いメンタルを持つ選手の共通したものは?」と質問した。

「(困難に直面した時は)どれだけ粘り強くできるか。あきらめたら終わりなんです。本田選手、鎌田大地選手、東口順昭選手は、みんなG大阪ジュニアユースからユースに上がれませんでした」という具体例を出した二宮さん。

「その挫折から逃げるのか、前へ前へと向いていけるのか。結果が出ない時は、やり方を変えてみるのも1つの手段。もしかすると間違った努力、練習をしているかもしれない。みなさんもそういう時は1度、自分自身を振り返ってみてください」

二宮さんがG大阪にスカウトしたFW播戸竜二が、後にヴィッセル神戸へ移籍した際、FW三浦知良(カズ)と同僚になって人生が変わったという具体例も出した。

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「みなさんには無限の可能性がある。自分のストロングポイントや、模範とするべき人を見つけてください。それは家族、友人かもしれません。播戸選手はカズ選手と出会い、模範とするべき人と出会ったといいます。そういう人との出会いは必ずあります」

二宮さんのバリュエンスへの転職は、自身がG大阪時代にスカウトした元Jリーガーの嵜本晋輔氏(39)が社長を務めていたことで決まった。社内では嵜本社長が「コーチ」で、社員が「アスリート」のような新鮮な関係だという。

「社員の能力を最大限に引き出そうとしてくれる社長という名のコーチがいたことに、深く感銘しました。そういった出会いを、学生のみなさんにも経験してほしい。努力は報われないかもしれませんが、当初思っていたことと違う形で花開くかもしれません。みなさんの活躍を期待しています」

この講義は、二宮さんと大和大学の橋爪真・政治経済学部長との縁で実現した。学生は真摯(しんし)に話を聞き、二宮さんの所属するバリュエンスの大西剣之介・人事部長も教室の最後尾で興味深そうに、耳を傾けていた。そういう記者も感銘を受けた1人。二宮さんの講義は既に大産大、愛媛大など多くの学校関係や組織で行われており、今後の人生訓になるに違いない。【横田和幸】

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