サッカーのアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の1次リーグが1日までに終了し、昨季まで仙台を率いた手倉森誠氏(54)が監督を務めるタイ1部BGパトゥムがG組を首位通過した。日本人指導者が海外クラブを同大会のグループ1位に導いたのは初めて。日本代表で16年リオデジャネイロ五輪の男子監督や18年W杯ロシア大会コーチを歴任し、今年2月から自身初の国外指揮に挑んでいる近況や東南アジア勢の躍進の要因を聞いた。【取材・構成=木下淳】

   ◇   ◇   ◇

手倉森監督は今、気温40度に迫るバンコク近郊にいる。パトゥムの本拠で集中開催されたACL1次リーグで堂々の3勝3分け。1位で16強の決勝トーナメント(T)に駒を進めた。オーストラリアのメルボルンと2戦とも引き分け、韓国の全南とフィリピンのシティから3勝。チームの突破が川崎Fの敗退に結びついたことでも話題になった。

「日本や韓国、オーストラリアに追いつこうという東南アジアの対抗意識が燃えに燃えていることを、ここに来てから知って泡を食った結果ではないか。W杯に出ていない格下と見られた一方、こちらはACLに懸けている。だからジョホール(マレーシア)が勝って川崎が敗れる番狂わせも起きたと肌で感じている」

そう分析する手倉森監督は今年1月にパトゥムからオファーを受けた。仙台のJ1残留を逃した責任を取り、国内移籍を封印。18年にU-21タイ代表監督の打診を受けたことがある国に縁も感じていた。2月に着任。リーグ戦で首位と勝ち点12差の4位に沈んでいたチームの再建を託された。

「高温多湿のため体力が持たない」とプレスに課題を抱えていた選手には位置取りの優位性の原則から教え、カウンター対応難にはリオ五輪代表を率いた際の堅守を伝授。A代表コーチ時代に見てきたアジアNO・1のボール保持など経験を伝えた。就任後はリーグ7勝1分け。4日の最終節も4-1で勝ち、勝ち点2差の2位まで浮上させた。

タイ人と目の高さを合わせることに腐心している。

「使う、扱う、は上から目線。関わる、と選手には言っている。失敗した時に笑ってしまう癖もあるが、ほほ笑みの国の文化だから怒ってはいけない。日本なら細かくプレーを止めて言う場面でも、高圧的と勘違いされないよう泳がせる」

代名詞のダジャレは我慢している。「選手に『足がいタイ(痛い)の?』と聞いても通じない」と笑い、代わりに端的な会話を心掛ける。日本では時に大演説もしたが「戦術でも鼓舞でも、フレーズを短く切り分けて伝えるようにした」。西野朗氏がタイ代表監督だった時と同じ通訳など現地スタッフからは「もう心をつかんだ」と歓迎された。

一方で「その前にクラブが本気」と、自らの力だけではないと強調する。19年にタイ2部まで落ちていたチームに「シンハービール」の瓶製造から創業したガラス会社が増資。元広島のFWティーラシンら代表クラスを集め「欧州クラブ並み」と驚く施設を整えた。

ACLも、1次リーグをホームで戦うために昨季から大会招致。計画の加速が自身の獲得だった。U-23日本代表をアジア制覇に導き、集中開催のターンオーバーは得意。今回も中2日を無敗で「ローテーションの神様」と呼ばれている。

「オーナーから言われたのは『シーズン終盤の2月に呼んだが、まずリーグ戦で戦力を把握してもらい(4月からの)ACLで絶対に勝ってほしい』。1次リーグに懸ける準備が違う」

日本人指導者初の海外クラブ首位通過で応えたが、満足しない。8月の決勝T1回戦は傑志(香港)と対戦。「日本勢と当たるまで負けられない、が合言葉だから」と8強以上を狙う。

◆手倉森誠(てぐらもり・まこと)1967年(昭42)11月14日生まれ、青森県五戸町出身。双子の弟浩とサッカーを始め、漫画「キャプテン翼」の立花兄弟のモデルに。MFとして五戸高、住友金属(現鹿島)、鹿島、NEC山形(現山形)でプレー。95年引退。山形、大分、仙台のコーチを経て08年に仙台監督。16年リオデジャネイロ五輪代表監督、日本代表コーチも務めた。その後、長崎、仙台の監督を歴任し、今年2月からBGパトゥムを指揮する。

◆ACLの日本人監督 Jリーグ以外のチームを率いてACL本戦に出場した日本人監督は20年のチェンライ(タイ)を指揮した滝雅美氏の例がある。Jリーグでの監督経験はないが、同年10月までタイ1部リーグ王者の監督。決勝トーナメント進出を逃した。日本人が海外チームを率いて1次リーグ突破は、BGパトゥム(タイ)を率いる今大会の手倉森誠監督が初。

◆東地区の決勝トーナメント1回戦 8月18、19日に一発勝負で行われる予定。1次リーグで日本勢は韓国勢に未勝利だったが、16強進出は日本勢が最多3チームで、韓国勢の2チームを上回った。J組を1位で通過した神戸はH組1位の横浜との日本勢対決。F組2位の浦和はI組1位のジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)と対戦する。大邱は全北との韓国勢同士の顔合わせ。J2仙台前監督の手倉森誠氏が指揮するBGパトゥム(タイ)は傑志(香港)と当たる。