フィギュアスケート女子で北京五輪(オリンピック)出場を決めた坂本花織(21)や、1月の4大陸選手権で5年ぶりの優勝を飾った三原舞依(22=ともにシスメックス)。その2人に負けじと、今季成長を示した同門のスケーターがいる。

フィギュアスケート栃木冬季国体で10位に入った籠谷歩未(2022年1月27日)
フィギュアスケート栃木冬季国体で10位に入った籠谷歩未(2022年1月27日)

籠谷歩未、21歳。神戸を拠点に中野園子コーチから指導を受ける同志社大の3年生は、同い年の坂本、1学年上の三原と共に、3年ぶりに全日本選手権へ出場した。2018年大会の23位を上回る20位と躍進。大会は有観客で行われ、さいたまスーパーアリーナの広々とした会場を楽しんだ。

「昨シーズンも全日本に出られず、2年ぐらいは観客がいないのが当たり前になっていました。行く前は緊張していたけれど、ワクワクして『やっぱり全日本は違うな』と思いました」

2021年3月の終わり、兵庫・尼崎市のリンクでの出来事だった。「ちょっと氷の上で走ってみてよ」と促され、当たり前のように滑った。後ろからついてきた男性には「速すぎて、追いつけない! すごく上手だね!」と驚かれた。

それがフリー「アナスタシア」を振り付けた、エルネスト・マルティネス氏との最初のやりとりだった。「エルニ」と親しまれる同氏は2歳上の23歳。浅田真央さんが座長を務めた「サンクスツアー」に参加した経験があり、近年、日本選手の振り付けを担当する。籠谷は思い返して笑った。

「私は元々、表現の部分が苦手だと思っていました。でも、先生には『人それぞれの振り付け、踊りがある。苦手とかないよ』と言っていただきました」

人のつながりで生まれた縁だった。今季のショートプログラム(SP)は「コウノドリ」の「ベビー・ゴッド・ブレス・ユー」。その振り付けを担当し、過去にも多くの作品に携わってきた川越正大氏から「違う振付師さんに頼んでみるのも、1つの手段かもね」と背中を押された。マルティネス氏との面識はなかったものの、指導を受ける川原星コーチが「サンクスツアー」で共演していた経緯があり、同氏を紹介された。

演目は「アナスタシア」に決めていた。曲を探していた時に「これにしよう!」とひらめき、その話をする前に、チームを率いる中野園子コーチから「アナスタシア、どう?」と提案された。言葉を交わさなくても一致した感性。滑りたい曲を、今度はマルティネス氏と作り上げた。ステップはリンクをイメージし、タブレットを指でなぞりながら、コース取りを考えた。「最後の決めポーズ、どんな感じにする?」と尋ねられ、一緒に作品を完成させていく作業が新鮮だった。

「川越先生には自分からは絶対にやらないような振り付けを入れていただき、思い切ってやってみることで、新しい可能性を広げてもらいました。マルティネス先生とは一緒に作ることで、全ての動きへの意識が頭に入る。自分の中で『毎回、演じる』という意識が、強くなってきました」

神戸野田高3年だった3シーズン前と違った自分で、全日本選手権に進んだ。

年が明け、1月27日まで栃木で行われた冬季国体に出場し、今季の全国規模な競技会は終わった。

だが、籠谷にひと息つく時間はない。

同志社大では仲間と「納豆」の消費に関して研究。人口は減少する中で売り上げが伸び続ける理由を、研究し、29~30日に実施されるプレゼンテーションに向けて準備を進めてきた。

スケートに打ち込む籠谷だけでなく、部活動、アルバイト…。同志のさまざまな事情を踏まえ、オンラインでの打ち合わせは夜中になることもある。翌日が早朝からの練習であっても、手を抜かずに向き合った。

「せっかく同志社に行ったからには、何か1つ、勉強でも頑張りたいと考えていました。『これには全力で取り組みたい!』というのがあった方が、達成感があるなと思っていました」

2度目の五輪出場が決まった坂本は、全日本選手権直後、一緒に大舞台に出場したうれしさを表現した。

「あゆは小中高と一緒の学校にいって、家も近所。家族みたいな存在です。その子がずっと必死に頑張って、勉強も頑張って、スケートも頑張って、やっとその努力が報われてうれしい気持ち。『もっともっと、あゆといろいろな大会に出たい』っていう気持ちが強いです」

来季は大学ラストイヤー。籠谷は自分らしく、目の前の道を進む。【松本航】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

フィギュアスケート栃木冬季国体 成年女子フリーで演技する籠谷歩未(2022年1月27日)
フィギュアスケート栃木冬季国体 成年女子フリーで演技する籠谷歩未(2022年1月27日)
栃木冬季国体 成年女子ショートプログラム(SP)で演技する籠谷歩未(2022年1月26日)
栃木冬季国体 成年女子ショートプログラム(SP)で演技する籠谷歩未(2022年1月26日)
栃木冬季国体 成年女子ショートプログラム(SP) の演技を終え笑顔を見せる籠谷歩未(2022年1月26日)
栃木冬季国体 成年女子ショートプログラム(SP) の演技を終え笑顔を見せる籠谷歩未(2022年1月26日)

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは五輪競技やラグビーを中心に取材。18年平昌、22年北京五輪と2大会連続でフィギュアスケート、ショートトラックを担当。19年はラグビーW杯日本大会、21年の東京五輪は札幌開催だったマラソンや競歩などを取材。