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今日の1枚

日刊スポーツが蓄積してきた写真の中から厳選して紹介します。

2021年1月29日
2021年1月29日

21年1月29日、冬季国体2021のフィギュア成年男子でフリーの演技を終え、感極まる大阪・本田太一。


今日の出来事

アルベールビル五輪で伊藤みどりが、日本フィギュア初の銀メダルを獲得(1992年)

21日に行われた女子フィギュアで伊藤みどり(22=プリンスホテル)が銀メダルを獲得した。フリー演技でトリプルアクセル(3回転半)に2度挑戦し、7度の3回転ジャンプを決める果敢な演技で観客を魅了してこの日2位、総合でもオリジナルプログラム4位から一気に駆け上がった。五輪でのフィギュアスケートのメダル獲得は日本史上初。優勝はクリスティ・ヤマグチ(20=米国)。佐藤有香(19=法大)も7位に入賞。伊藤のジャンプ力にプロフィギュア側も500万ドル(約6億5000万円)の値をつけた。


アルベールビル五輪 エキシビション
アルベールビル五輪 エキシビション

銀メダル獲得から一夜明けた22日、伊藤はエキシビション出場のため午前9時半にリンクに姿を見せた。前夜は記者会見が午前1時までかかり、その後軽い祝勝会を行ったため、ベッドに入ったのが午前3時。「小さいころからのあこがれだったオリンピックで、銀メダルを取れてよかった。部屋の片付けもあったので、4時間しか眠れませんでした。メダルは少しだけみなさんに見せびらかして、部屋のベッドの横に置いてきました」とまぶたをはらしていた。

実は前夜、エキシビション用に使う「雨に唄えば」のミュージックテープを名古屋に忘れていたことが判明。NHKの衛星を通じて急きょ送ってもらった。それだけ、試合に集中していたということだろう。試合直後はまだ実感がわかないと話していたが、「金は取れなかったけど、本当に良かった」と、改めて喜びをかみ締めた。

エキシビションでは、出だしに曲がなかなか流れず苦笑する場面もあったが、伸び伸びと楽しそうに「雨」のメドレーを踊った。アンコールは「レ・ミゼラブル」とフランスを意識したものを用意していた。

前日のフリー。拍手と歓声、そして地鳴りのような足踏みで会場が揺れる。9000人超満員の観衆が、ワインレッドの衣装をまとった身長145センチの小さな女性の果敢な挑戦に驚嘆した。

演技後半、ピアノ協奏曲に乗って伊藤が再びトリプルアクセルに挑んだ。前半にトライして転倒。本来なら無難にトリプルルッツを跳ぶ場面。だが、伊藤の頭に金メダルも表彰台もなかった。「トリプルアクセルを跳びたい」。全身で弾みをつけて、思い切り高く跳び上がった。着地がピタリと決まる。その瞬間、伊藤の顔から笑みがはじけた。続くトリプルループ、ダブルアクセルも完ぺきに決めてフィニッシュ。アクセルを含む7度の3回転ジャンプに、会場が拍手と歓声に包まれた。

最後の演技で自分のスケートを貫き通した。19日のオリジナルプログラムで3回転ジャンプをアクセルからルッツに替える安全策を取って失敗した。フリーでも最初のトリプルアクセルで転倒した。2度失敗すればメダルはない。普通なら絶対に再度挑戦はしない。だが、伊藤は跳んだ。「跳ぶまで(アクセルだと)わかりませんでした。あのチャレンジ精神がみどりの強さなんですね」と、山田満知子コーチも伊藤の心意気に感心していた。

得点は技術点はジャッジ9人中5人が5・9(6点満点)をマーク。芸術点は約0・1点ずつ下がったが、この時点で2位。総合でも4位から2位。フィギュア史上初の銀メダル獲得が決定した。だが、伊藤にその実感はない。「トリプルアクセルを跳べた。それだけで満足なんです」。

少ないチャンスを確実にものにする。伊藤のこの性格はスケート選手としては希少なハングリー精神から培われた。栄小6年の時に両親が離婚。以来、母千佳子さん(48)の手ひとつで育てられた。小学校のころは一日7時間の練習から帰宅後、家族の夕食を作ることもあった。コスチュームもお下がり。そんな中で競技を続けてきたことが、精神力の強さにつながった。

山田コーチの陰からの支えも計り知れない。小6の時、経済的理由でスケートを断念しそうになった。その苦境を伊藤を自らの家に引き取ることで乗り越えた。自分の生徒の親に呼び掛け、500円のカンパを要求したこともあった。中学時代には厳しい練習、過酷な減量に伊藤が音をあげ何度も「やめる」と言ったことがあった。その都度、「あなたにはスケートしかない」と説得し続けてきた。

すでに22歳。あのカルガリー五輪金メダリストのカタリナ・ビット(ドイツ)が引退した年齢と同じ年になった。念願の金メダル獲得こそならなかったが、満足のいく演技で五輪を締めくくった。引退もささやかれているが「スケートを続けられたら続けたいけど、これから先のことはまだ白紙です」。感激に浸る伊藤に今後のことを考える余裕はなかった。

名古屋の友人からファクスで届いた「おめでとう銀メダル」の寄せ書きをうれしそうにながめている顔は、晴ればれとしていた。

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★伊藤みどりに聞く

-銀メダルを胸に下げた実感は

伊藤 みなさんの期待にこたえられずに、金ではないんですけどやっぱりメダルはうれしいです。おめでとうと言えるんじゃないでしょうか。

-1度失敗したトリプルアクセルを再び跳んだ理由は

伊藤 最初から考えてました。トリプルルッツがダブルになって、アクセルも転倒。絶対に五輪でトリプルアクセルを跳ばなきゃ、と思ってました。

-トリプルアクセルが成功したときの心境は

伊藤 すごくうれしかった。歓声も聞こえました。

-今後はまだスケートを続けていくのですか

伊藤 続けられるのだったら続けたいと思います。でも、今は五輪が終わったばかりで、何も考えられません。3月には世界選手権に出場しますが、今後の予定も全く決めてません。

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★トリプルアクセル(3回転半ジャンプ) アクセル・ジャンプは、ノルウェーの男子選手アクセル・ポールゼンが始めた。サルコー、ルッツ、ループなど他のジャンプはいずれも後ろ向きに踏み切り、後ろ向きに着地するのに対し、アクセルは前向きに踏み切って後ろ向きに着地するため、半回転多く回ることになる。2回転がダブルアクセル、3回転半がトリプルアクセルとなる。

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★みどりプロフィル

◆生まれ 1969年(昭44)8月13日、名古屋市出身、22歳。

◆つらいことも 両親が離婚。母千佳子さんの女手ひとつで兄、妹と育てられた。小さいころから家事をし、妹の面倒を見た。4歳で始めたスケートが楽しみだった。

◆世界の女王 89年世界選手権で優勝。トリプルアクセルを女子で初めて跳び、世界中から注目を浴びる。

◆総務部 東海女子高校-東海学園女子短大家政科から現在プリンスホテルの総務部総務課に勤務。145センチ、44キロ。