元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。17回目は「上位進出の鍵!小技を磨くには何が必要なのか」です。

 ペナントもセパ12球団が70試合以上を消化し、いよいよ後半に突入した。ソフトバンクと広島が独走態勢を固めつつある状況下だが、交流戦ではバント失敗で試合を落とす球団も見られた。

 シーズン制覇はもちろん日本一の可能性を残すクライマックス・シリーズ(CS)進出へ、バント、エンドランなど小技の出来がAクラスを決める一要因となるだろう。

 小技を成功させるためには何が必要なのかを今一度考えてみた。

 交流戦では阪神がバントで星を落とした試合が印象的だった。6月7日のロッテ-阪神戦。3回に北條、6回に狩野がバントを失敗。いずれも無死一、二塁の好機に得点できず1-2で惜敗した。金本監督も「バント練習もやっていると思うけど、どこまで真剣にやっているのか。自分を追い込んでね。単にバントだと練習するんじゃなく、9回無死一、二塁の場面を想定してやってるのか」と苦言を呈したが、まさにその通りだ。

 どうしたらバントがうまくなるのか。言わずもがな練習しかない。だが、実戦の中で小技を磨くことが大事だと思う。阪神なら陽川や江越、ロッテなら井上、青松らは、2軍ではクリーンアップに座るがバントのサインは基本ゼロだ。1軍昇格した際、バントのサインがゼロというなら納得がいく。しかし、1軍では6、7番に入るケースも多い。終盤でバントのサインはあり得る打順だ。2軍の実戦でバントしていないのに1軍でほぼ確実に決められるはずがない。

 どの球団でも1軍では試合前練習でベンチ前にマシンが設置され、バント練習をする。しかし、生きた球ではない。打撃ケージ裏に陣取る打撃コーチが選手に張りつきでバントをチェックする光景はあまり見かけない。打率は3割打てばOK。バントは9割9分の成功率をベンチは求めているのに軽視されているような気がしてならない。

 私の現役時代のコーチで、平野謙氏(歴代2位451個)と高橋慶彦氏(現オリックス打撃コーチ)はバント指導がうまかった。そういったバント成功の極意を知るコーチの存在が必要だ。バント専門コーチがいたって不思議ではないと個人的には思う。

 ここで犠打数、同成功率をチーム順位ごとに見てみよう(※数字は29日現在)。

【パ・リーグ】

▽ソフトバンク(犠打70個-成功率90・9%)

▽ロッテ(61個-87・1%)

▽日本ハム(90個-94・7%)

▽西武(58個-77・3%)

▽楽天(64個-92・7%)

▽オリックス(63個-86・3%)

 日本ハムの犠打数が突出しており、成功率も94%超とバント攻撃の多さが顕著。ほか楽天、ソフトバンクが同成功率90%超となった。

【セ・リーグ】

▽広島(48個-78・7%)

▽巨人(56個-77・8%)

▽DeNA(47個-79・7%)

▽阪神(33個-67・4%)

▽中日(55個-75・3%)

▽ヤクルト(35個-71・4%)

 セは投手がバントを失敗するケースもあり数字が低いのかも知れない。ただ投手だからといって、バントが出来なくても良い理由にはならない。セ・リーグでは投手のバントが勝敗を分ける場合も多々ある。

 パ・リーグでは9割超の犠打成功率を誇る球団がソフトバンク、日本ハム、楽天の3球団。投手力、打撃力、小技にスキがないソフトバンクの強さはここでも垣間見える。

 阪神は12球団唯一の成功率60%台…。ヤクルトも、あの強力打線にバントの精度が上がればもっと効率良く得点できるはずだ。

 1軍の打撃コーチにバントより打つほうが得意な人が多いのではないか、とふと疑問がわいたので調べてみた。

 パ1軍打撃コーチのNPB犠打実績では日本ハム金子誠氏が292個でトップ。続いてロッテの堀幸一氏が121個、ほかは100個以下だった。日本ハムはバント攻撃を多く用いていることから金子コーチが熱心に指導されている姿が浮かぶ。

 同様にセ・リーグ。広島石井琢朗氏が歴代8位の289個、同東出輝裕氏が同15位タイの264位、DeNA小川博文氏が168個と3桁。ほかは50個以下だった。

 意外だったのは広島の犠打数(48個)が少ないこと。石井、東出両コーチのバント実績からすればもっとチームの犠打数が高くても…。もっとも12球団NO・1の走力があるからこそバント以外の攻撃を駆使し、攻撃の幅が広がっているのだろうと推測される。

 バントだけじゃない。エンドランやバスターエンドランなど1軍で可能性のある作戦は、2軍の実戦で経験を積んで、成功してこそ1軍でも成功する。阿部慎之助クラスでもバントをするのになぜ2軍の育成の場でバントをさせないのか疑問だ。1軍ではバント失敗が勝敗に直結した場合、それが原因で2軍落ちすることもあるのに。

 1軍で小さくまとまった打撃をフルスイング矯正するため、小技のサインが抑えられる選手もいるだろうが、育成方針がしっかりしていればそれで問題ない。バントしなくても打ち勝てる自信があるなら、それに越したことはないし、バントがすべてではない。ただ、小技を身につけておいて、将来損をすることもない(バントのサインが出ない選手は除く)。

 バント、エンドランが一発で決まれば監督の“指し手”は増える。相手がその作戦を警戒すれば重圧がかかり、ミスも誘発する。好循環が勝利につながるのに、1軍で作戦を打つための準備が2軍でできているだろうか。2軍では打順に関係なくバントなど小技をやらせるという育成が大事だと思う。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)