100回の夏を記念するイベント「甲子園レジェンド始球式」のトップを切り、巨人や大リーグのヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏(44)が登場した。開幕戦の藤蔭(大分)-星稜(石川)の始球式に登板。後輩捕手が構えるミットめがけて全力投球も、ストライクゾーンを大きく外れるワンバウンドに。「この年になっても甲子園の魔物に襲われた」と頭を抱えた強打者に、甲子園が沸いた。

 三塁側ベンチ前の後輩と、松井氏の思いは1つになっていた。バックネット裏で母校の開幕戦勝利を見届け、高らかに校歌を歌った。「これ以上ない1日になりました」。26年の時をさかのぼり、レジェンドはゴジラに戻っていた。

 試合前には大役を務めた。エスコート役の小学6年生、山下暖生(はるき)君と手を取り合い、マウンドに登場。トップバッターとなったレジェンド始球式では、むろん、ストライクを狙っていた。登板前の練習は、まずまずだった。だが、ミットを構える後輩捕手、山瀬慎之助(2年)を見て、調子が狂った。

 松井氏 あの黄色のユニホーム見たら、力入っちゃいました。暴投投げても大丈夫だと。後輩なんで。思いきり投げたんですけどね、それが良くなかったですね、結果的には。

 ストライクゾーンを大きく外れるワンバウンド投球。頭を抱えた松井氏に、スタンドは爆笑。苦笑したのは星稜・林和成監督(43)だ。前日4日の電話。かつて三遊間を組んだ仲。1学年上の先輩、松井氏は「俺が始球式を務めることで選手が浮つかないように。俺はお前が一番心配」と気遣う余裕を見せていたが…。

 松井氏 この年になっても甲子園の魔物に襲われたな、と思っています。

 それでも、魔物すら懐かしい。

 松井氏 やはりその、原点ですね。高校野球、甲子園というのは私の憧れでしたから。

 恩師の山下智茂監督(73=現名誉監督)は「甲子園には魔物がすむというが、私にとっては宝物に思えた」と言った。箕島(和歌山)・尾藤公元監督(故人)らと出会い、感性を磨き、松井氏らへの育成力を育んだ。その松井氏は高校3年春の2打席連続弾、夏の明徳義塾(高知)戦で5打席連続敬遠。記録にも記憶にも残る春夏を刻んだ。

 松井氏 特別な機会に後輩たちとあそこで一緒になれるのは、夢のようです。

 レジェンドは次の100年に何を望むのか。

 松井氏 そのままでいいじゃないですか。もちろん人それぞれ考え方はあるでしょうけど、私はそういう気持ちです。

 次の100年も、球史を紡ぐ。「松井」を追う夏が始まった。【堀まどか】