アルプス席の応援が、球場全体に広がった。劣勢をはね返せと、拍手が鳴り響く。9回表。白山(三重)の4番辻主将は思った。「何かできるんじゃないか?」。予感と裏腹に投ゴロで最後の打者になったが、ナインは甲子園を肌で感じた。

 16年まで夏の三重大会10年連続初戦敗退から、初の甲子園へ。辻主将が「日本一の下克上」という快進撃は、東拓司監督(40)が赴任した13年が原点だ。新チームは5人。熱血監督の「甲子園を目指すんだから、甲子園と同じサイズにしよう」という発案でまず外野の雑草を処理。ネットをペンキで塗り、外野フェンスを作り、両翼95メートルを測って、鉄パイプのポールを埋めた。

 東監督は「球場の雰囲気がすごくあって…。負けて悔しいんですがね」。完敗という厳しさと、挑戦者への優しさ。「弱いなりに頑張っていれば、いいことがあるんですね」と辻主将。甲子園を知った白山はきっと、もっと強くなる。【加藤裕一】