<横浜高野球部元監督:渡辺元智氏>

「これはまずい、と思いましたよ」。元横浜高監督の渡辺元智氏(76)は教え子涌井の節目に、18年前の一通のショートメールを思い出した。

03年9月、秋季神奈川大会3回戦の横浜隼人戦。チームは2回に先制も、不安定な姿勢を見せた当時2年の先発涌井に、厳しい言葉を吐いた。「勝っているのに崩れそうで『何、下を向いているんだ』とめちゃくちゃ怒りました」。延長11回、サヨナラ負け。1人投げ抜くも敗戦投手の涌井に、試合後も叱責(しっせき)。右腕は指揮官へ返事もせずに、寮へ帰った。

渡辺氏は焦った。帰宅後、携帯電話を開き「あんちょこ(説明書)を見ながら」慣れないショートメールを送った。「松坂の後の、横浜高校の大エースになってもらいたい。だから厳しく言ったんだ」。すぐに返信が来た。「分かりました。明日から頑張ります」。

寡黙な右腕が背負った名門の重責。恩師の信頼が圧を和らげ、誰よりも熱い心に火をつけた。卒業後は事あるごとに「あの時のことが糧になって成長させてくれました」と口にする。渡辺氏も「ほっとしました」と目を細める。

「200勝というのは遠い目標かもしれない。私は『目標がその日その日を支配する』と言ってきましたが、それを大事に、やってくれている。体は衰えますが、考え方、精神面はまだまだ上がっていくだろうと思います」。大台達成へ、色あせない思いを込めた。【桑原幹久】

<横浜高野球部元部長:小倉清一郎氏>

彼ほど走るのが好きな選手は見たことがない。右翼ポールから約100メートルを走って捕球するノックを1日60本。足が速い涌井のスピードに合わせて打つのは難しくて、最後は「部長のノックは日本一だ」と褒められましたよ。けん制、クイック、フィールディングの練習も、毎日1時間やりましたね。次は200勝してもらいたい。ここからが大変だと思いますが、いい奥さんと子どもに囲まれて家庭が充実しているのが一番。家族を励みに、1歩1歩進んでもらいたいね。