阪神の投手コーチと主力選手として、05年のリーグ優勝と13ゲーム差を逆転されてV逸した08年を知る日刊スポーツ評論家の中西清起氏(59)と桧山進次郎氏(52)が特別対談した。テーマは「05年アゲイン&ノーモア08年」。天国と地獄の思い出をぶっちゃけながら、前半戦を首位で折り返した矢野阪神にエールを送った。【取材・構成=松井清員】

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中西 首位ターンは予想通りだけど、もう少し巨人とゲーム差を開けたかった。最大8が2まで縮まったのはちょっと誤算だった。

桧山 前半最後は調子が落ちたけど、首位折り返しはすごいこと。これだけ貯金があるのは大したもの。どちらかというと巨人が大型の連勝でグッときた。悲観する必要はありません。

-3位ヤクルトも2・5差に迫る三つどもえ状態

桧山 ヤクルトは捨てるモノがないですからね。阪神は戦力があって優勝したい、優勝したい、できた。ヤクルトはチーム状況的に、チャンスが少ないところからのスタート。一泡吹かせてやろうぜという感じなので、ちょっと違いますね。

中西 ヤクルトが2位にくる分には全然阪神のプレッシャーが違う。巨人が2位に来るのとは。巨人には7勝8敗とやられてるけど、ヤクルトには10勝3敗で貯金が7個の相性がある。

-中西さんと桧山さんはコーチと選手で05年のリーグ優勝の天国と、08年は13ゲーム差を大逆転される地獄を体験した。まず05年はどんなシーズンでした?

桧山 03年に優勝して、どうしたら勝てるか、こういうゲームをしたら勝てるというのが分かっていました。ここだという時に一致団結して集中力を発揮した。強かったですね。このゲームという試合は絶対モノにする強さがありました。

中西 4番が金本でエースが20勝投手の井川。投打の大黒柱がいたのは大きい。しかもJFKという強力なリリーバーがいた。相手は6回までリードされたらというプレッシャーの中で戦うわけだから楽ですよ。

桧山 救援陣が疲れてくると井川が完投してくれた。

中西 03年経験者が中心で大人のチームだったね。

-05年も前半から飛ばして逃げ切りV。中日と競り合っていた9月のナゴヤドームで、岡田監督が久保田に「むちゃくちゃしたれ」とゲキを飛ばしたことも

中西 2位の中日を3ゲーム差に突き放したあの試合は大きかった。延長で中村豊の決勝弾が出てね。優勝するシーズンはドラマがある。先日、矢野監督も9回3点差の逆転サヨナラ勝ちで涙を流したようなね。

(自ら続けて)

中西 問題はやっぱり08年だね。北京五輪の年で今年のようにシーズンの中断がなく矢野監督、球児、新井の3人が抜けたのは痛かった。代役の若手を準備できなかったことも響いた。

桧山 大人のチームだったけど、主力が抜けたことに加えて、貯金も増やしていった疲れが秋口に出た感じですね。阪神も粘って夏場は5割前後でいってたけど、それ以上に巨人が負けなかった。1回ぐらい負ける、そろそろ負けるだろうと思っても負けなかった。

中西 巨人との直接対決で7連敗だからね。それでもまだ2、3ゲームあった。痛かったのは5-0から大逆転負けを食らった10月のヤクルト戦だね。3安打無失点の先発安藤を5点リードの6回で代えて、中4日で天王山の巨人戦に行かせようと考えた。でも7回以降、久保田、ジェフ、アッチソン、球児の方程式が打たれて5-7で負けた。

桧山 首脳陣はシーズン終盤になると、そういうことを考えないといけない。

中西 やっぱり目の前の試合を取りにいかないとダメだね。反省として。7回まで引っ張ると、中4日は難しい。5-0だったし、巨人戦にと考えたけど…。あの試合は悔いが残るね。

-最大13差離した巨人に追い上げられたチームは

中西 見ていて岡田監督がかわいそうだった。遠征先は食事会場に来ても、ほぼ何も口に入れない状態で、アルコールだけ進む。だんだんげっそりしてきて。

桧山 らしくないですね。

中西 いや、そういうタイプよ。とにかく8月からの遠征はミーティングが長かった。ナイターが終わってから朝の3時、4時ぐらいまで。「どうすんねん、明日からどうすんねん。どうすんねん。明日からどうすんねん」。そんなミーティングばっかりで、朝6時までもあったよ。試合後にコーチ会議は1回終わってる。でも部屋に帰ってシャワー浴びて食事会場に行くと、コーチ陣だけのテーブルだから、反省しながらの食事になる。でも2~3時間やって、夜中1時、2時になると、ホテルの宴会場係の人もかわいそうでね。

(自ら続けて)

中西 8月の遠征はコーチ陣に一斉メールよ。東監督付広報に「監督が宴会場に来る時は全員に知らせてくれ」って。打撃コーチがいなかったら、「こんな夜によう外に飯食いに行けるな」となる。「今日監督はホテルで食事します」とメールが来ると、みんな「エーッ」ってなって、約束してた予定はキャンセル。結局、監督と一緒に食べて「どうすんねん、明日からどうすんねん」の繰り返し。

桧山 僕は遠征先でホテルの食事会場に行くのは結構遅めでしたけど、いつも首脳陣が残ってて。「お先です」と言っても解散する雰囲気がなかったですね。

中西 監督がお開きにするまでみんな帰れない。(コーチの1人が)「か、監督、あの、ホテルの人が…」って言うと、「そんなもん、金払ってるんやからエエやないか」って。「しゃあないな、場所変えるぞ」となって、監督の部屋に移る。スイートルームだから、12~13人座れるテーブルがある。3時、4時になると窓の外が明るくなってくる。でも、監督はそれだけつらかったんだと思う。お酒は飲めても食事がノドを通らず、眠れない毎日が続いていたからね。

桧山 それが巨人に逆転されて、衝撃的な辞任につながっていくわけですか。

中西 監督も巨人に7連敗したあと、優勝を逃したらやめるというのは覚悟していたみたい。でもみんな、びっくりしたもんな。続投って言われてたから。「え~っ!」。やめるって?

桧山 衝撃の、横浜スタジアムのロッカーですよ。

中西 そうそう。前の日横浜に負けてV逸が決まった翌日の10月11日、横浜戦の試合前に急に全員集合させて。「オレ、ユニホーム脱ぐから」って。みんな「え~っ!」ってなって。

桧山 監督が出ていったあと、フロントの人が慌てて「ちょっと、選手残ってくれっ。今のハナシは聞かなかったことにしてくれ、口外しないでくれって」。

中西 球団はまだやってもらうつもりだったから。

桧山 でも監督は1度言ったら絶対っていう人で。

中西 そこが潔さやね。

桧山 僕らも「え~っ!」という変な雰囲気のまま横浜と戦ってました。

-常勝ムードもできた03年&05年の後、まさか15シーズン優勝できないとは

中西 でも今年は08年とは違う。五輪で主力が離脱することもない。優勝できる時にしておかないと勝負の世界だから、次の年は首脳陣、選手含めチームが変わってしまうからね。08年の反省を踏まえて言えば、どのチームに勝っても1勝は1勝。ローテは巨人を中心にぶつけない方がいい。

桧山 ぶつけた時点で、選手たちも意識しますね。

中西 もちろん青柳が中心だろうけどね。青柳、秋山、ガンケル。この3人を分散させないと怖い。やられた時の反動、リスクが大き過ぎる。前半と後半のローテは意味が違うし組み方が難しい。監督とコーチは、これでもかというぐらい頭を悩ませる時期になる。

◆08年10月3日のヤクルト戦(神宮) 鳥谷、今岡、赤星の適時打などで5点をリードした阪神は、3安打0封と好投の先発安藤を6回83球で代えた。中4日で同8日の巨人戦に回すための戦略だった。だが久保田、ウィリアムス、アッチソン、藤川の勝利の方程式カルテット全員が打たれて悪夢の7失点。勝てば優勝マジックを6に減らせた試合で逆転負けし、マジックが消滅。残り7試合で巨人に同率首位に並ばれた。岡田監督は「そらお前、まさかよ」とぼうぜんだった。