<阪神5-2ヤクルト>◇3日◇京セラドーム大阪

 ウイニングボールの感触はしばらく消えなかった。阪神真弓明信監督(55)が初めて見せた感傷的な表情だった。「球児から渡されてね。実はこういったボールは持ってないんだけど、これだけはほしかった。残しておこうかな、と思う」。就任以来、あっさりとした楽天家の振る舞いを続けてきたが、やはりこの瞬間は違った。チームの全責任を負う指揮官として臨んだ開幕戦。苦渋の決断の末につかんだ白球は、とてつもなく重かった。

 7回に試合の行方を左右する決断を迫られた。開幕投手に指名した安藤は6回を終えて、4安打1失点。球数は80球。信頼するエースにもう1イニングを託すか、それとも盤石の中継ぎ陣に任せるか。「ちょっと迷った。でも投げてくれるんじゃないか、と」。選んだのは、続投だった。しかし7番田中浩から3連打を浴びる。リードは3点に縮まる。「ちょっと引っ張りすぎたか。投げきってくれ」。葛藤(かっとう)はあった。それでも選手を信じた。安藤は踏ん張って、最小限に抑える。右か左か。道がふたつに分かれたとき、心にあったのは「不動心」。座右の銘だ。

 育てながら勝つ-。第31代タイガース監督は難題を突きつけられている。しかし逃げることなく、正面から向き合ってきた。打撃不振に苦しむ桜井をオープン戦で使い続けた。結果の出ないメンチとは、開幕前日にキャッチボールの相手になり、コミュニケーションを取った。13年ぶりのオープン戦最下位でも、自分を失うことはなかった。安藤続投もその姿勢がにじみ出た。「ひとつの課題が先発投手。少しでも長く投げてもらいたいから」。

 この日、自らが選んだ道は初勝利という正解につながっていた。2番にこだわった関本の大きな3ラン、4番金本の復活弾…。リリーフ陣を2人しか起用しなかったのは、阪神の新たな一面となるはずだ。「ゲームの流れをつかむのが、大事だった。(金本が)ポンと打ってくれて、ベンチも楽になった。セキも(バットを)短く持って、ホームランを打てる。他の選手にも出てくるんじゃないかな」。得点力不足が不安視された打線も、序盤にチームを勢いづけてくれた。

 近くで見ていた岡野手チーフコーチは言う。「我々に迷っている表情は見せなかった。監督は楽しんでいたよ。ジョークも言いながら」。人知れず耐えて、真弓監督は笑顔を咲かせた。【田口真一郎】

 [2009年4月4日10時40分

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