横綱日馬富士が引退した。貴ノ岩の頭をカラオケのリモコンで殴って、裂傷を負わせた。そらあかんわな。横綱やしなあ…。しかし、もったいない。そう思いませんか?

 白鵬、稀勢の里、鶴竜の3横綱が全休した秋場所で、優勝した。5日目を終わって2勝3敗、10日目を終わって6勝4敗。金星4個も与え、いつ途中休場してもおかしくない状況やったのに、1人横綱の責任を全うすべく土俵に上がり続けて、終盤は5連勝。すごかったのは、千秋楽でしょう。本割、優勝決定戦で豪栄道を連続で退けた。突き刺すような立ち合い、気迫みなぎる取り口。豪栄道は「完敗です」としか言えなんだ。途中までのもたつきは何やってん? 誰もがそう思うほど“横綱のすごみ”はえげつなかった。

 体調はいつも万全やなかったようです。

 7月の名古屋場所前やった。宿舎で朝稽古を見て、話を聞いた。相撲担当歴2カ月の素人が「体調はどうです?」と聞くと、ため息交じりに答えてくれた。

 「う~ん、良くないね」

 -やっぱり両肘ですか?

 「そうだね」

 -思い切って2場所ぐらい休んで治すっちゅう選択はないんですか?

 「2場所とか、半年じゃ無理。1年以上とかじゃないとね」

 -そんな長くは休めませんわなあ

 「本当に治したいなら、辞めないと。辞めた後じゃないとね」-。

 体重137キロ。九州場所の番付で、幕内力士42人のうち、宇良と荒鷲の135キロ、千代翔馬の136キロに次いで軽かった。力強さを備えたスピードで最高位を必死に守り抜いていた。力士の大型化が進む時代に、異彩を放っていた。

 答えに困ったら、決まって「一番一番、全身全霊で…」と言うてはった。その時は「またかいな」と思ったけど。そのセリフがもう聞けん。ほんまに寂しい。そう思いませんか? 【加藤裕一】