「お相撲さんは口べた」。世間の多くの人が抱いているイメージだろう。現役時代は「不器用だけど頑張っている」などと、ほほえましく見られ、好意的に受け取られることが多いと思う。ところが引退して親方になると、その延長線上にあるとは思われなくなる。無言や説明不足の親方は、世間から大きな批判を浴びることが多い。昨年11月に発覚した、元横綱日馬富士関による暴力問題から続く一連の不祥事も、言葉足らずな親方衆の言動から波紋が広がったように思う。

 「日本相撲協会=悪」。歴代の理事に、こわもてが多いことも手伝い、このイメージも根強いと思う。そのイメージが強く出たのが「女性は土俵から下りてください」と複数回アナウンスされた問題だ。今月4日に京都・舞鶴市で行われた巡業で、多々見良三市長が土俵であいさつ中に倒れ、救命処置を施していた女性に土俵から下りるよう場内放送で促された。もちろん人命にかかわる緊急事態であり、この場内放送は非常識で批判されて当然だ。ただ「日本相撲協会=悪」のイメージが強すぎるからか、世の中も冷静さを欠いていると感じていることがある。

 この問題が起きた時、巡業部長の春日野親方(元関脇栃乃和歌)は当初、トイレに行っていたと説明した。その後、インターネット上に、騒然となる土俵の後方に立つ同親方の画像が出回った。同親方は後日、トイレを含めて、次の巡業先への移動準備など、その後に控える幕内の取組を見るために会場裏におり、後から市長が倒れているところを目撃したと言った。当初の説明を補足した格好。その場で取材した新聞、通信社計5社、民放テレビ局1社は、いずれも「ウソをついていた」とは報じていない。当初のコメントからの「補足」という報道だったが、イメージ先行で「ウソ」と変換されていった。

 不思議なことに、その場に来ておらず、1次情報を持たないテレビ局に限って、こぞって「ウソをついていた」と“断言”するようになっていた。情報番組ではウソをついていたことを前提に、出演者が「バカ」とまで発言している。相撲界に起きた暴力については声高に批判しているが、これも言葉の暴力ではないのかと思った。立場が弱まっている人には何を言ってもいいのだろうか-。

 事情を知らない視聴者は、まさか「ウソをついていた」という報道が「ウソ」とは思わないだろう。一連の不祥事で相撲協会は、随所でほめられたものではない対応を取っている。「口べた」では済まされない言動は目に余る。ただ、だからといって間違った情報を使って、特定の団体や個人をおとしめることが許されるわけもない。そういったことの積み重ねが少なからず影響しているのか、ついには相撲協会執行部や関係者への殺害予告まで出た。襟を正さなくてはならないのは、相撲協会だけではなく、我々、報道機関も同じだと思わずにはいられない。【高田文太】