2度目の優勝を狙う朝乃山(25=高砂)が、恩師に贈る新関脇初白星を挙げた。過去1勝3敗と合口の悪かった前頭御嶽海を寄り切りで下して、昨年3月の春場所から6場所連続初日負けなしとなった。昨年末は地元の富山に帰省。17年に急死した、母校・富山商相撲部監督の浦山英樹さんの家族と食事をして英気を養い、記念すべき白星につなげた。

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不思議な力が朝乃山を後押しした。立ち合いで突き放されると、一気に土俵際まで追い込まれた。俵に左足がかかり、前に出ようとした瞬間にはたかれた。体勢を崩したが、落ちない。足を前に出し、引いた御嶽海を土俵際に追い込んで右四つに。右下手は切れたが、左上手をしっかりとつかんで寄り切った。「いつもならあそこで落ちている。今日は体が動いた」と不思議そうに振り返った。

年末年始は実家に帰省した。地元に戻った際に恒例となっているのが、恩師の浦山さんの家族との食事会。今回は大みそかに、行きつけのラーメン屋で大好物のご当地グルメ“富山ブラックラーメン”を一緒にすすった。がんのため40歳で急死した恩師。「先生がいなかったら今の僕はいない。僕もその家族に加われればという思いがある」と、残された恩師の妻や子どもたちとの時間を大切にしている。墓参りにも行き「相撲で恩返しがしたい」とさらなる活躍を誓っていた。

警戒していた鋭い出足で前に出られて、はたき込まれたが耐えてつかんだ白星。八角理事長(元横綱北勝海)からは「はたかれた時によく足を送れた。あのあたりはよく稽古しているなと感じた」と評された。場所前には田子ノ浦部屋に出稽古に行き荒磯親方(元横綱稀勢の里)と三番稽古を行うなど、充実した稽古が実を結んだ。同時に「いい報告はできると思います」と天国で見守る恩師の力も感じていた。

成績次第では大関昇進の可能性がある今場所。土俵入りでは先場所よりも声援が大きく、緊張感があったが「自分らしい相撲を土俵の上で見せるだけ。挑戦者のように前に出て行くのが自分の相撲」と自分に言い聞かせながら土俵に上がった。「うれしいのは今日だけ。切り替えたい」。新関脇初勝利は胸にしまい、恩師のためにも白星を重ねる。【佐々木隆史】