母や親族の思いが詰まった締め込みで、再十両の土俵に立つ-。
大相撲秋場所(14日初日、東京・両国国技館)で、3度目の十両昇進を果たした大関経験者の朝乃山(31=高砂)が、新調した本場所用のまわし、締め込みに込められた思いを明かした。10日、都内の部屋で約1週間前に届いた「至極(しごく)色」の締め込みを着け、四股やすり足などの基礎、ぶつかり稽古で胸を出すなどして汗を流した。届いた直後に、長さを調節するために着用して以来、2度目の着用となった締め込みについて、稽古後、熱く語った。
朝乃山 黒に見えるかもしれないですけど、黒寄りの紫色です。「至極色」。母から「十両に上がったら着けてほしい色がある」と、5月だったか、7月だったかの場所前に言われていて。相撲道を極めてほしいという意味と、もう一つ、まさに自分のことを指しているような意味があって。
そう言って、自身のスマートフォンに届いた、母の石橋佳美さん(63)からのメールを見せてくれた。そこには「至極色」の説明と、母からの激励が入り交じった文章が書かれていた。
「捲土重来(けんどちょうらい) 大志、大望を抱いた者が一度や二度の挫折や失敗で諦めたり挫(くじ)けたりするな まきかえせ」。
三段目最下位格付け出しの初土俵から番付を駆け上がり、大関までたどり着いた。そこから新型コロナウイルスのガイドライン違反で、6場所の出場停止処分を受けた。三段目から再起して、再び小結まで番付を戻したが、今度は相次ぐ故障に見舞われた。昨年7月の名古屋場所では左膝前十字靱帯(じんたい)断裂の大けがを負い、またまた三段目からの出直しとなった。それでも復帰後の3場所合計18勝3敗とし、今場所、晴れて関取に返り咲いた。関取が2度、三段目まで番付を落としながら、関取に復帰するのは史上初の出来事だった。
「マザコンじゃないっすからね(笑い)」と、冗談めかして前置きした直後、朝乃山は表情を引き締めて語った。
朝乃山 うれしかったですね。締め込みを作るのに、だいたい60~80万円かかる費用は、母を中心に身内の方に出していただきました。年齢的にも、これがラストチャンス。この締め込みを最後まで、引退するまで着けていたいと思っています。
2日前の8日が、佳美さんの誕生日だった。出場停止中に父靖さんを亡くし、その後悔を引きずり、自分を責め続けた朝乃山。自分を許すことができていない朝乃山を、母は常に気に懸けていた。朝乃山も、必要以上に気に懸けてくる母を、心配させまいと土俵で踏ん張り続けた。心身ともに張り詰めていたものが、プツッと切れたように昨夏、大けがに見舞われた。
“何があっても味方だ”。そんなエールも込めて、母が親族に声を掛けてお金を出し合い、作られた新たな締め込みは、着用2日目ながら「だいぶなじんだ」と、不思議と朝乃山の体にフィットした。「次にけがしたら終わり」と、これからは毎場所、背水の陣の決意。秋場所は「最低でも2桁勝たないと。必ず優勝争いに加わって、できれば優勝したい」と、大勝ちで、早期の幕内復帰を見据える。そして幕内でも再び、優勝争いに加わることが目標。「至極色」の締め込みとともに、朝乃山の本当の復活物語は間もなく、幕を開ける。【高田文太】

