俳優舘ひろし(75)が、企画、脚本から携わった映画「港のひかり」(藤井道人監督)が14日に公開される。長年、映画への思いを灯火(ともしび)に見立て、絶やすことなく心の中に持ち続けてきた。映画らしい非日常を描き、今までにない自分が映っている。さまざまな思いや要素が凝縮された作品が完成し、思いを語った。【小林千穂】
★企画・脚本携わる
「よろしくね。たくさん聞いてね」と、にこやかに取材場所に現れた。企画が動き出してから3年以上を要した作品とあって、完成に至った喜びは大きい。脚本にも参加。元やくざで漁師の男が、ある少年に無償の愛を注ぎ青年期まで交流する物語を練り上げた。
「最初にいただいたプロット(筋)では、おじさんと少年の期間が長かったんですが、少年が大人になってからの話を少しふくらませて非日常さを出していきました。(主人公の)三浦という男の本性、人間がもっと出てくるような気がしたんです」
★やくざか元やくざ
やくざものは、やりたかったジャンルだった。「ヤクザと家族 The Family」(21年)で、意外だが初めてやくざを演じた。それまでは、「地獄の天使 紅い爆音」(77年)で元やくざを演じたことがあっただけだった。
「やっぱり、非日常を描きたかったからです。そのツール、と言ってしまうとなんですが、非日常を表現するにはやくざか元やくざがいいかな、と思いました」
せりふ、行動、この男ならどう振る舞うかを徹底的に考えた。暴力の世界から離れたはずの男が、少年を思って暴力を振るう場面を振り返った。雑然とした家の中でのシーンだった。
「何を使って殴ろうか、やくざだから素手で殴るんじゃなくてきっと何か武器を持つだろうと思って考えていました。台本には書いてありませんでした。現場を見渡したら、スタッフさんが用意してくれた飾り物の中に、ポットがあったので、それに決めました。ある意味、暴力を否定しないやくざの部分を出したかったんです」
★元暴走族ですから
ダンディーが代名詞の舘だけに、暴力というワードは遠いところにあるイメージだが「僕も元暴走族ですから」と笑った。照れ笑いの奥には、演じる男の背景、本性を考え抜いたことが見て取れた。
★初めてぐっときた
取材では非日常という言葉が何度も出てきた。映画の醍醐味(だいごみ)だという。初めてぐっときた作品は、スパイ映画シリーズ「007/ドクター・ノオ」(63年日本公開)だった。
「おやじが映画館に連れて行ってくれました。それまでにもいろんな映画に連れて行かれましたけど、初めて心に残った映画です。暗い世界にいるはずのスパイを表に引っ張り出してきて、スタイリッシュに描いて、エンターテインメントにするという。スパイってこんなにかっこいいの? って。『ゴッドファーザー』にしても、マフィアという普通の人は見られない世界をエンターテインメントとして見せる。映画ならではですよね」
★これが映画の魅力
「あぶない刑事」を撮影していたころ空き時間に、横浜の映画館で「トップガン」(86年)を見たことも思い出だ。続編の「トップガン マーヴェリック」(22年)も劇場で見た。非日常を味わえる作品を語ると表情がパッと明るくなる。「港のひかり」で、非日常を見せたかったと話したこととつながった。
「僕は、これがやっぱり僕は映画の魅力だと思います」
今回タッグを組んだ藤井監督は「ヤクザと家族」以来2回目。撮影を手がけた木村大作カメラマンとは初めての仕事だった。木村さんは、舘が慕い続ける渡哲也さん(20年死去)が出演した「時雨の記」「誘拐」といった作品の撮影を手がけた。木村さんは、あるパーティーで、渡さんと一緒にいた舘に「僕も渡さんの舎弟です」とあいさつしたことを話している。
★渡さんに感謝したい
「僕らは、木村大作さんがおっしゃったように渡さんの舎弟ですから、底辺ではつながっているような気がしていたんです。そこは渡さんに感謝したいです。初めて大作さんと仕事をする時、アドバンテージを渡さんがくれた…僕にとってはすごく幸せでした」
渡さんの雰囲気、居ずまいをほうふつとさせる場面がある。
「40年間ずっと渡さんのそばにいて、一生懸命、芝居を見ていたんだと思うんです。知らないうちに立ち居振る舞いに反映されてきたのかな。まったく意識してないですが、結果的にそう見えるというのは、ずっと渡さんを見ていたからなんでしょうね。そう言われてうれしいです」
渡さんに完成を報告したいと言う。何と言ってくれそうか。
「前は『ひろし、芝居がうまくなったな。うまくなくていいんだ』って怒られたんです。もう怒らないかもしれないね」
★ひとつの自分の形
「港のひかり」では新しい発見もあった。
「それまで、例えば『あぶない刑事』とか、他の作品でもそうですけど、必ず自分の中のスタイリッシュな芝居をすごく意識して、形からお芝居を作ってたところがあるんです。でも今回はそういうのは全くなく、気持ちだけで映画を撮り終えた気がします。ひとつの自分の形かなというのは、完成したものを見てそう思いました。この作品が多分、僕の映画人生50年の集大成と言えると思います」
集大成と言うにはまだ早い。木村カメラマンは「舘さんはこれからもっと良くなる」と話している。この言葉を伝えると破顔した。
「うれしいです! だって、木村大作さんに言われるんだよ!」
常々、「映画の灯火(ともしび)を絶やさず追っていきたい」と話している。あらためて意味を問うた。企画、脚本から今回の映画に携わった経緯にもつながる。
「石原プロモーションで、石原裕次郎さんがやり残した映画への思い、渡さんも映画をできなかった思いがあります。気持ちは僕が背負って少しずつでも、やっぱり映画に向かっていろんなことをしていきたいです」
組んでみたいクリエーターを聞いた。
「巨匠とはやりたくないんで、若い方と一緒にやりたいなと思ってます。いやでも、大作さんは巨匠だからね。今回やってすごく勉強になったし、藤井監督ともケミストリーが生まれたから、巨匠とやるのも意味があるのかなっていう気がします」
バックステージで見せるような自然体が、芝居にも現れる。心がけていることがある。
「常にいつも感じるということでしょうね。どんなことでもいいんです。夕日を見てきれいだなとか感受性を磨いて、小さなことに感動する訓練をする、そういうことかもしれません」
▼「港のひかり」の撮影を手がけた木村大作カメラマン(86)
今までの舘ひろしさんとは違うものを表現したいと思っていましたし、舘さんの持っている良さは写しとったという自負はあります。舘さんは撮りがいがありましたね。じっと何かを考えて、感じている時の表情は本当にいい。俳優さんの真実の姿、内面、どういう思いでこの映画をやってるんだろうというのは、やっぱり表情に出るんだよね。舘さんはこれからもっと良くなる、これからだろうと思います。
◆舘(たち)ひろし
1950年(昭25)3月31日、名古屋市生まれ。75年、オートバイチーム「クールス」結成、レコードデビュー。76年、映画「暴力教室」で俳優デビュー。79年からテレビ朝日系「西部警察」出演。83年、石原プロモーション入社。ほか、ドラマ、映画「あぶない刑事」シリーズ、映画「免許がない!」「終わった人」など多数。歌手としても「泣かないで」のヒットがあり「NHK紅白歌合戦」2回出演。21年に立ち上げた「舘プロ」を率いる。20年旭日小綬章受章。179センチ。






