脱はんこを打ち出している河野太郎行政改革相が、9月25日の定例会見で述べた言葉です。行政のデジタル化の話ではありますが、芸能界も芸能マスコミもゴリゴリのファクス社会なので、発言を興味深く聞きました。

ここ数年はメールとの2段構えも増えてきましたが、やはり軸足はまだファクス。1日に結婚を発表した石原さとみさんの直筆メッセージも、報道各社にファクスで寄せられています。

もっともらしい長所から言うと、まずはガセ情報対策として、お互いなんとなくファクスを好むんですよね。石原さんの所属事務所もそうですが、歴史のある大手には送り状のあるなしを含め、書き方送り方にそれぞれクセや書式があって、真贋(しんがん)が分かりやすいのです。担当者が直筆でひと言書き足している社もよくあり、筆跡がセキュリティーに一役買っていたりもします。

その昔、ジャニー喜多川さんと黒柳徹子さんの結婚というガセ情報が一斉ファクスされたケースは特徴的でした。黒柳さん自身もよくネタにしていますが、あのファクスも芸能担当なら「ジャニーズ事務所の書式ではない」とすぐに気付くもので、誤報する社はありませんでした。ちなみに、昨年ジャニー氏が亡くなった際に事務所が発表した所属タレントたちのコメントも、すべてファクス。部員総出の入力作業となりましたが、やはり正式なものはファクスという習慣が、令和でもお互い残っています。

もっと言えば、伝統と格式のある劇場は今も「はがき」。歌舞伎座、明治座、帝国劇場、宝塚歌劇、劇団四季などの大手は公演取材の案内が封書や往復はがきで届き、同封のはがきに記入して返信する形です。

エンタメ各社、媒体、芸能事務所、代理店、官公庁などあらゆる方角から無秩序に情報が交錯するため、件名だけでは埋もれかねないメールより、視認性が高いファクスの方がお互い安心という事情もあります。現物の方が管理もしやすく、なんだかんだポータブル。それは相手側も同じで、メールで届いても「添付の取材依頼書をファクスで返信」と書かれているケースは多いです。

短所は、とにかく紙資源のムダであり、紙代がかかること。特に河野氏が改革したいお役所方面がらみのファクスは、長いものが多い印象です。イベント案内の場合、普通は要点と実施概要を1ページにまとめているケースが多いのですが、役所のそれは、イベントの歴史や開催意義、主催者プロフィールの詳細など長々と説明しがち。かつて13枚×4(52枚)の受信に遭遇したことがありますが、今なら河野氏がキレやしないか心配です。

普通紙の大量消費は高くつくので、なんと本紙では今年の2月まで感熱紙のファクス機を使っていました。将来のペーパーレス化を踏まえ、デジタルファクスに切り替えましたが、紙の出力は続いています。

原稿用紙に代わるワープロ出稿が導入された90年代、こんな大きくて重たいもの使えるかと思っていたものも、今では軽量化されたPCでどこからでも記事送信する時代。ファクスに代わる何かも、より便利に改良されていくのだと思います。要は慣れであり、芸能界のファクス文化も変わっていくのでしょうか。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)