ロミオから柳生十兵衛へ-。星組トップ礼真琴は9月18日に兵庫・宝塚大劇場で開幕した「柳生忍法帖」「モアー・ダンディズム!」で、前作から対極にある「大人の男」を表現する。前作では、純粋すぎたゆえに悲劇へ走る「青年」ロミオを好演。礼自身「前のロミオは、忘れてください」と笑いながら、陰をまとった隻眼の剣豪役に臨んでいる。

当代随一の“歌ウマ”にして、屈指のダンサー。心を動かす芝居の技量と、下級生時代から高いレベルで3拍子がそろっていた。取材時もサービス精神旺盛でトーク上手、と万事において、快活で達者-。

そのイメージは、昔からずっと変わらない。

【復刻2013年 5年目の“3役”挑戦、元サッカー日本代表の父に「見に来て」】はこちら>>

初めて取材したのは、2度目の新人公演主演だった14年の「眠らない男・ナポレオン-愛と栄光の涯に」。本公演は、レジェンドと呼ばれた当時星組トップの柚希礼音が主演した宝塚歌劇100周年幕開け作だった。

男役ながら宝塚音楽学校を首席で卒業し、すでに「3拍子そろった若手」と評判だった礼も、ナポレオンを演じるには、まだまだ若い研5(5年目)。お手本となる本役は、男役として円熟期に入った柚希、6年余りトップに君臨する「レジェンド」だった。

その前作「ロミオとジュリエット」の新人公演にも主演していたが、ロミオは青年役だ。では、大人の男、ナポレオンは-。注目を集める中、難易度の高い楽曲も歌いこなし、抑揚のある演技力も示した。

宝塚大劇場での1度かぎりの新人公演終演後の囲み取材で、他社のベテラン記者が、質問の前に「明日もやる?」という冗談が出るほどのうまさだった。

【復刻2014年 6年目のバウ初主演、ドラマ見てやくづくりの秘策語る】はこちら>>

大好きなカラオケでボーカロイドの高音曲も歌いこなす圧倒的な歌唱力は、やはり、安心感、安定感を生む。この後、星組の主力へと成長し、全国ツアー「風と共に去りぬ」ではヒロインのスカーレット役を見事に演じ、魅了した。

花の95期。すでに同期から星組トップの礼、花組トップ柚香光、月組新トップ月城かなとに、トップ娘役3人を輩出しており、星組の瀬央ゆりあ、花組の水美舞斗、雪組の朝美絢、宙組の桜木みなとら各組に主力人気スターがそろう。

【復刻2016年 女役大役を経てシリアス劇の星男 カラオケ秘話も明かした】はこちら>>

礼は音楽学校時代から、成績は非の打ちどころがなく、同期から「なんでもできるスーパーマン」のように思われていた。瀬央や水美らはかつて、取材で「昔から(礼は)なんでもできた」と言い、同期ながら背を追う存在だったとも明かしている。

音楽学校卒業後、初舞台には同期全員で臨み、最初で最後の共同作業になる「ラインダンス」を披露する。成績上位者は、下位の面倒を見るのが学校時代からの仕組み。首席の礼にかかる負荷は大きかった。

元星組トップ娘役の妃海風は、成績優秀で常に自分のことだけでなく周囲に気を配り、すべての責を負う礼を気にかけていたという。

妃海はかつて、礼について「確かに歌もダンスも、何もかも上手で、さらっとやれちゃうように見える。でも、そうなる前に、家でめちゃくちゃ(練習を)していると思う。練習(の進め方)もうまい(効率的)のかな? とも思います」と話したことがある。

妃海によると、ラインダンスの稽古中のある日、礼が倒れたそうだ。「びっくりした」と振り返って続けた。「同期の前では『なんでもできる、こっちゃん(礼)』だから、弱音もはけない面もあったかも」。

【復刻2017年 外部初主演作へ毎日腹筋100回 青春ヒーロー】はこちら>>

成績も近く、同じ星組に配属された妃海は、互いに相談をし、励まし合ってきた。新人ながら大役を得た礼が稽古で毎日しごかれ、どん底まで落ち込んだときも、ずっとそばにいた。退団した今も連絡をとりあっているという。

この世に、生まれながらのスーパーマンなどいない。天賦の才に勝るとも劣らぬ「努力する才能」が礼をトップたらしめ、トップとして満開の花を咲かせ続けている。

今作は、兵庫・宝塚大劇場は11月1日まで、東京宝塚劇場は11月20日~12月26日。【村上久美子】