作品性・作家性を重視した良質な邦画を、国内外に発表することを目的とした新映画レーベル「New Counter Films」(ニューカウンターフィルムズ=NCF)設立が4日、都内で行われた会見で発表された。第1弾作品として、二ノ宮隆太郎監督(37)が手がけ、坂東龍汰(25)高橋里恩(26)清水尚弥(28)3人が主演の映画「若武者」を、5月25日に世界同時期に公開する。
NCFは、製作と配給を行うコギトワークスが、動画配信サービス大手U-NEXTの協力を受けて設立した。「誰もが観たい映画ではなく、誰かが観たい映画をつくる」をミッションに、コギトワークスが独自の配給網を駆使して国内の単館系のミニシアターと海外17都市のアートハウス劇場に配給を行う。さらに、U-NEXTで都度課金(TVOD)制の同時配信を行い、物理的な理由で映画館に足を運べない観客にも作品を提供する。
NCF代表の関友彦氏は「作家至上主義とも違う。監督がやれる場所を作るのではなく、プロデューサーが監督の最大限を引き出す場、作ったものを我々が直接、お客さんに届ける場として設立した。昨年、合同会社も立ち上げている」と立ち上げの経緯を説明。「作ったものをお客さんに届ける、BtoCを僕達がやってもいいんじゃないのかな」と続けた。もう1人の代表の鈴木徳至氏は「作り手の僕らからすると、自分たちが見たいものにこだわりたい」と力を込めた。
収益の配分構造を見直し、総事業費改修後の全体収益の50%を作り手に還元するということも打ち出している。関氏は「国内の(映画の)収益の分岐点を2500万円にしている。まずは、総事業費2500万で作るものを監督と考えましょうと。少ない額ではあるけれども、だからこそ勝負が出来るものを考え、世に放つ。海外の劇場を加えると収益が超え、キャスト、スタッフに分配できる。そこに、ビジネスとして挑戦したい」と語った。
映画館の公開と同時に配信を行った場合、日本映画製作者連盟(映連)の「最初に映画館のみで公開されたものを映画として認める」という規定から外れ、国内では映画として認められなくなる。質疑応答で、その点について聞かれた関氏は「そのルールを変えたい。~だから映画でない、映画だという論調は、今だとそれに当てはまらない作品が増えてくる。作品が何であるかを見てもらう」と答えた。
劇場公開と配信が同日だと、配信と劇場の食い合いになるという声も業界には根強くある。鈴木氏は「(音楽では)音源が出てもライブに行くのと変わらない…というくらい(映画業界においても)配信が普通になった。劇場に合わせて音も設定しているところで(映画を作った)原寸大で体感したいというものにしていきたいと思うし(映画館と配信が)食い合っていかないという自信もある」と答えた。
「若武者」は、光石研(62)が映画に12年ぶりに主演した23年「逃げきれた夢」が世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭と並行開催されたACID部門に出品された、二ノ宮監督の最新作。渉(坂東)英治(高橋)光則(清水)の幼なじみ3人が“世直し”と称して街の人間のささいな違反や差別に対して無軌道に牙をむき、次第に暴力に変化していく物語。
二ノ宮監督は「構想を考えたのは、映画を始めた20年前。どうしても作りたくて、製作することができた。尊敬するスタッフ、キャストと他にない映画ができたと思う」と作品に自信を見せた。その上で「37歳になるんですけど、自分が10代に抱えた思い…見た人に影響を与える作品を作りたかった。自分が監督、脚本(を担当)することを、すごく考えさせていただいた。自分の性格の闇を、全てさらした映画になった」と作品を評した。
鈴木氏は、会見の最後に「一辺倒な日本映画作りに、一石を投じたい」と訴えた。関氏も「日本では500、600本の映画が生まれている。でも、日本を飛び出して海外で見られているものは10%もない。自主映画的に作られている作品でも、いいものはあるが、監督が頑張って作って宣伝もしている。その隣にプロデューサーがいないが故に、こんな映画があるんだ、という情報すら伝わっていない。あのレーベルのものだったら見たい、という周知につなぎたい」と、近い未来の目標を掲げた。【村上幸将】