女優吉行和子(よしゆき・かずこ)さんが2日未明に肺炎で亡くなったことが9日、分かった。所属事務所が発表した。90歳。故人の遺志により、葬儀は近親者のみで執り行ったという。
17年に、映画「家族はつらいよ2」に出演した際には、家族について本紙インタビューで語っていた。(2017年5月23日付掲載「日曜日のヒロイン」肩書や年齢など当時)
◇ ◇
女優生活は今年で60年を迎えた。吉行和子(81)。役に恵まれず、葛藤を抱えた時期もあったが、自ら企画する舞台公演が支えになった。60代後半から面白さを感じる役が舞い込むようになり、最近は山田洋次監督(85)の「家族はつらいよ」シリーズで味わい深い演技を披露している。ここまでの道のりと今の気持ちを聞いた。
★憧れの監督から声
シリーズ最新作「家族はつらいよ2」で、熟年離婚の危機を乗り越えた夫婦の妻を演じている。今回は「死」もテーマになっているが「いろんなことがあって、心から笑えてハッピーな気持ちで(亡くなった人を)送り出せる話というのは、さすが山田監督です。とても気持ち良く笑えました」と話す。
山田作品は13年「東京家族」が初参加。16年のシリーズ前作「家族はつらいよ」に連なる作品だった。「出るチャンスなんか一生ないと思っていた」という憧れの監督から声が掛かり、覚悟も決めた。
「監督のおっしゃることが全部染み込むように、今までやってきたこともなし、先入観もなしで、私自身を白紙状態にして監督の前に出て、どういう言葉をいただけるか、どういうことを望んでいるか、分かりながらやっていこうと思いました」
「家族はつらいよ」は、夫婦の離婚危機を発端に、ため込んできた家族の不満が噴き上げる様子をユーモアを交えて描いた。新作も家族の尊さを感じるヒューマンドラマ。シリーズを通して「家族」というものを見つめ直した。父は作家吉行エイスケさん、母は97年NHK連続テレビ小説「あぐり」の主人公のモデルにもなった美容師の吉行あぐりさん。さらに兄は作家吉行淳之介さんという一家に育った。母は忙しく台所に立つ暇もなく、家族で食卓を囲む時間などなかった。
「家族はいるけど、我が家はみんなで食事したり悲しんだり喜んだりっていうのを経験しないまま終わっちゃった。今1人になってしまって、そういうことをまったく知らないで一生終わっちゃうはずが、この映画に出ることによって家族っていいなと思えました」
★30代40代で葛藤も
幼い頃は引っ込み思案だった。
「本ばかり読んで、本の中の人物をいろいろ想像して遊ぶのが好きだった」
中学3年の時、劇団民芸の舞台を初めて見た。
「自分が1人で遊んでたことを、いろんな人が出てきて、いろんなことをしゃべって物語が進む。すごく面白いことがこの世にあると初めて分かった。女優になることではなく、劇団に入る夢ができた」
劇団民芸が研究生を募集していると新聞で知って申し込んだ。裏方の衣装の仕事を希望したが女優として採用された。初舞台となった57年「アンネの日記」で主演した。
ドラマや映画など映像の分野に活動を広げたが、戸惑いも感じた。
「女優になりたい熱意があったわけじゃないから、場違いかしら、他の人は生き生きしてやる気満々なのに、私はすごく消極的だな、向いてないんじゃないかなと思ったりしていました」
30代、40代とキャリアを重ねたが「女の人は面白い役がなくなってくる。30歳くらいの時、あとどのくらいできるのか、50歳になったら仕事がなくなってやめるのかしら、何て思ってました」。
葛藤を抱える自分を支えたのは「舞台」だった。33歳で民芸を退団。程なくして1年に1度、自分で演目を探し、自分でスタッフも集める形で舞台公演を始めた。
「自分がやりたい役をやっていたから、そういう意味では、めげないで済みました」
92年から13年続けた1人芝居「MITSUKO」は海外公演も行った。
「舞台はいつも自分でやりたいものを探していたから良かったんです」
★役になるの楽しい
7年前に舞台を引退後「(ビジョンは)白紙だった」と笑うが「すごく充実した老後になりました」という。67歳で出演した映画「折り梅」で認知症になる母親を演じた。「その辺から面白い役をいただけるようになった」。その後も06年「佐賀のがばいばあちゃん」や08年「おくりびと」などの映画で個性的な役と出合った。一時は悩みも抱えた女優の仕事だが、今は充実感でいっぱいだ。「私は趣味もなくて、実生活で楽しいことってほとんどないんですよ」と笑うが「役をもらってその役になって現場に行くのは本当に楽しい」という。「そのチャンスを今でもいただけているのは一番の幸せ。続けてきて良かった。続けさせてもらってるって感じですけどね。今は祈るような気持ちで『誰か私に楽しい役をください』という感じ。何か面白い役があるんじゃないかと思ってそれを楽しみに日々を過ごしてます」。
続けていれば、いつか花は開く。遅咲きの81歳は、まだまだ貪欲だ。



