ウルフには「柔道界の兄貴」がいる。トレーナーの前村良佑さん(32)だ。千葉・東海大浦安高柔道部の先輩で、10年間ともに歩んできた。13年に東京五輪開催が決まった時、前村さんは自宅でこう言った。

「アロンは24、25歳の一番良い時に東京五輪か。脂がのった最高のタイミングじゃん」

2人でテレビを見ながらの何げない会話。すると突然、ウルフがポロッと涙した。

「専属トレーナーになって一緒に五輪に行こうよ」

その4年後の東海大4年時に専属契約を結んだ。しかし、18年に左膝を手術、19年に右膝半月板を損傷…。五輪代表選考が進む中で苦難が続いた。前村さんは定期的に施術し、試合直前になるとウルフが寝るまでケアして心身をサポート。

ここ数年は減量にも苦しみ、リハビリ期間中は118キロまでになった。栄養学も勉強して助言。自炊をさせて体重を管理した。

この日はウルフの名前にちなんだ「オオカミ」Tシャツを着て、会場へ送り出した。

「トレーナーとして出会って10年。こんなに幸せなことはない。夢をかなえてくれてありがとう」

2021年7月29日。2人の夢がかなった特別な日になった。【峯岸佑樹】