記者になって3回目の冬がやって来る。

東京で研修を受けていた19年2月。初めて1人で取材に向かったのが全日本大学サッカー選手権だった。対戦カードは新潟医療福祉大-鹿屋体大戦。新潟医療福祉大は0-3からの大逆転劇を演じたのだが、その中で私は1人の選手にクギ付けになった。当時2年生のシマブク・カズヨシ。独特のリズムで突き進むドリブル、意表を突くスルーパス、そして得点力。スピード感あふれる1つ1つのプレーを逃さないよう夢中でシャッターを押し続けた。

スカウトでもないのに「絶対、プロで活躍する選手だ」と確信した。それ以来、私は何度も同大の練習に足を運んだ。佐熊裕和監督(57)にお願いして紅白戦も取材させてもらった。プレーは見るたびにすごみを増す。人間性も抜群で、私のくだらない質問にも明るく丁寧に答えてくれる。気分は、もう親戚のおじさん。「遠くに行く前にサインもらわないと」と思っていた矢先、今年の5月27日にJ2アルビレックス新潟から22年シーズンからの新加入が発表された。

その翌日に行われた加入会見から約5カ月。シマブクは特別指定選手として10月23日のブラウブリッツ秋田戦にスタメンでJリーグ初出場を果たした。後半28分に交代するまで得意のドリブル突破で再三チャンスを作り出した。試合は1-2で敗戦。ほろ苦いデビューに悔しさをにじませながら「もっと練習してプレーの質を上げないと」とプロで生き抜くための覚悟を口にした。

アルビレックス新潟にはかつてファビーニョやマルクスと言ったワンプレーでスタジアムの雰囲気を変えてしまう選手がいた。サッカーは時代で変化、進化していくが、最終局面ではやはり「個」の能力を持った選手が試合を決める。まだ大学在学中。将来性を高く評価するアルベルト監督(53)も起用に慎重な姿勢を見せる。正式入団後、「アルビのKAZU」がどんな成長を遂げて行くのか。今から楽しみだ。【J2新潟担当・小林忠】

21年アタリマエニ杯・四国学院大戦でドリブルするシマブク(21年1月7日撮影)
21年アタリマエニ杯・四国学院大戦でドリブルするシマブク(21年1月7日撮影)
19年全日本大学選手権の鹿屋体大戦でドリブルするシマブク(19年12月11日撮影)
19年全日本大学選手権の鹿屋体大戦でドリブルするシマブク(19年12月11日撮影)
19年全日本大学選手権の鹿屋体大戦、相手4人に囲まれながらもパスを出すシマブク(19年12月11日撮影)
19年全日本大学選手権の鹿屋体大戦、相手4人に囲まれながらもパスを出すシマブク(19年12月11日撮影)